妖縛記

   〜1〜


時代は、崩変時代(ほうへんじだい)。
この物語は、その当時最も天才といわれた呪術師・神藤一哉(しんどうかずや)が妖怪共が蠢く界巌帝という都を守ったりするという物語である。
また、この男の力は凄まじく後々祖先にまで影響したと言われる。
そして、最終血統が謎の男・神童秀正だと言われている。(詳しくは貴さんの小説第2弾「斉藤息吹少女の事件簿」にてどうぞ・・・)
この男の術力(呪術を使う力のこと)は世界を支配する力があったと書物には記され、帝(みかど)より重宝されたと言われている。
さあ、この男の話を始めようか・・・




崩変32年。
界巌帝の一角にその男の屋敷はある。
神藤一哉。彼は18歳の若さで帝の認める術師「呪祷師」に就いた天才だ。
「呪祷師」というのは、このころ界巌帝をよく襲った妖怪・妖魔・怪魔などを破壊・昇華・封印する仕事に当たる特別な呪術師の事だ。「呪祷師」の使う術は様々で、妖怪共を徹底的に破壊する術をよく使う者や、逆に防御に優れた術をよく使う者、治癒が可能な術が使える者がいる。
特に、治癒能力を持っている者は「呪祷環護師」と呼ばれ、界巌帝の中央に詰め所が置かれそこで傷ついた「呪祷師」を治癒したのだ。
「呪祷師」の破壊とは、悪念・執念の塊と化したどうしようもない人間の魂を永遠に葬りさる事で、妖魔にその種が多い。
また、昇華とは無念を晴らせなかった魂などを浄化してやる事で、今で言う成仏だ。これは、妖怪に種が多い。
そして、封印とは怪魔と呼ばれるこの世に悪をもたらし続けていると言われる通称「根源混沌招来魔」(こんげんこんとんしょうらいま)と呼ばれる、とんでもない妖魔が送り出す自然の力を身につけた『モノ』でこれは、魂ではないため強さの次元が半端じゃなく、封印するしかないのでそれぞれ術を使って石化し、それを金槌で叩き割るのだ。
神藤一哉は破壊系の「呪祷師」だ。


「・・・。今月は、いつもに似合わず平和だな・・・。」
屋敷の一角の縁側でため息をついているのは、神藤一哉だ。
彼は、今23歳。去年、この時代にしては遅く嫁を貰った。嫁の名は、佐奈姫(さなひめ)と言った。
この者は、元庶民だったのだが親が不治の病で死したところで一哉がその親から、嫁に貰ってくれと頼まれたのだ。
「一哉様。お茶でございますよ。」
佐奈姫は柔らかな笑顔で、お茶と彼の好物わらびもちを持ってきた。
「今日も、青空が素敵でございますね。」
「ああ。」
「こんな平和な日が、いつまでも続くと良いのに・・・」
「そうだな。だが、私の仕事がなくなってしまう。それは少々つまらんな・・・」
「あら?一哉様は、あんな危険な事でも楽しんでいらっしゃるのですか?」
佐奈姫は心配そうな顔をして聞いた。
「ん?まあ・・・。まあ、私が本当に楽しんでいるのは術を使うときだからな。あの、瞬間は非常に趣深い。ははははは。」
その時、明るい笑い声が木霊する屋敷に助けを求める声がやってきた。



「すんませーーん!」
門の前に立っていたのは、農民の侘蔵であった。
彼は、以前も一哉に依頼をしてきた男であった。
「どうした、侘蔵?」
わらびもちを食べながら、一哉は出てきた。
「あ、一哉様。へえ。実はぁ、このごろ畑に種を撒いたんですわ。しかし、翌朝起きてみるとでっかい足跡がついとるんですわ。しかも、種は潰れてしもうて・・・。最初は、獣の類かと思うたんですが何回撒いても同じ事が起こりましたんですわ。これは、何かある思いまして一哉様にお願いしようと思いましたしだいで・・・」
「わかった。このごろ、たいした事件も起こっておらんし、安全だと思うから佐奈姫も着いて来い。」
「わかりました。」
「へえ。お願いしやす・・・。」
侘蔵は深々と頭を下げる。


一哉が案内されたのは、前に行ったところとは全く違うところだった。
「ほう。ここがお前の家か・・・」
「へえ。それで、どうでしょうか・・・」
一哉は、少しの間畑を探索した。
「これは、簡単に片付くであろう。しかし、確かめる必要があるな。今晩はお前の家に泊まるぞ。」
「どうぞどうぞ。」
一哉は家に上がる。
そこは、前に訪れたときより質素な家になっていた。
「どうした。こんなのじゃ、無かったはずだ。」
「へえ。しかし、昨年の怪魔のせいで・・・。妻を亡くし、畑と家は無茶苦茶にされまして・・・。」
そこで、佐奈姫が興味深そうな顔をして話に入ってきた。
「それって・・・。あの、土を腐らせ地下水も止めてしまったあの怪魔ですよね。一哉様。」
「ああ。不風凱には手こずったな。あれは、私がであった怪魔の中で最も強かったかも知れん。」
不風凱と言うのは呼称である。
だいたいの怪魔は呼称を持っていて、「呪祷師」はそれでデータを取るのだ。
「では、今回も・・・」
侘蔵が心配そうな顔で聞く。
一哉は少し考えこんで言った。
「案ずるな。今回のは、ちょっと思い当たる節があってな。まあ、夜中まで待て。」
一哉は侘蔵が心配しないように穏やかに言う。
そうして、夜を過ごした・・・



夜中になった。満月の夜だった。
何か、恐ろしい獣が遠吠えをしている。
佐奈姫は一哉の袖にしがみついている。やはりここは怖いのだろう。
突然、異臭がした。鼻につく匂いだ。
ばたり・ばたり・・・
なんと、「呪祷師」である一哉以外は眠りこけてしまったのだ。
これは、妖怪の仕業であった。
妖怪は術は使うが、大体術力が低いので術力が高い「呪祷師」には効かないことがよくあるのだ。
「・・・」
一哉は落ち着いていた。大体、こういうことはよくあるものだ。
あばら家なので、月明かりがそこらじゅうから洩れている。
一哉は侘蔵の家の隙間から畑の様子を伺う。
すると、満月の下に10尺はあろうかと思われる妖怪が畑を踏みしめているではないか。   (1尺は約30センチ)
「ふむ。やはり、思ったとおりか・・・」
一哉は納得したような顔をして、見続けた。
妖怪自体は全身が赤く、髪のようなものは腰の辺りまで伸びていた。
しかも、吐く息は緑色をしていてただならぬ匂いを放っていた。
それが、催眠効果を出しているのだ。
そしてなんと、その妖怪の顔は悲しげに見えるのだ。
「・・・。やはり、思ったとおりだ。」
一哉は、確信した。
もう、ここまで見れば十分だった。
「眠たいし、寝るとするか・・・。」
満月の中、悲しそうな声が木霊していた。



「しまった!」
侘蔵が大声を出して、飛び起きた。
「おいおい。うるさいぞ。」
「へえ。しかし、朝まで寝てしもうて。」
「案ずるな。私が、ちゃんと見た。あの妖怪の吐く息が催眠効果を出しているのだから、仕方あるまい。」
「妖怪だったのどすか!!よかったさあ!」
「しかし、安堵するにはまだ早かろう。まあ、正体明かしといくか。」
一哉一行は畑の前に出て行った。



「今から、正体を見せてやる。」
一哉は、術を唱える用意を始めた。
「少し下がっていろ。」
「へい。」
「滅滅楽胆探雷炎粉逆鋼剣坐霜!!探魂鈴!!」
凄まじい光と音が辺りを包む。光の鈴だ。
「一哉様!?この光は?」
全く慣れていない佐奈姫は、悲鳴にも似た声で一哉に聞く。
そして、光が収まったとき・・・
物凄い巨体が、目の前に立っている。
その姿が完全に現れた。
「おかあ!?」
侘蔵がものすごく驚いたという顔をして、上を見上げる。
なんと妖怪の正体は、侘蔵が1年前に亡くしたと言う妻であった。
「全く。あんたって人は、もうかれこれ3ヶ月も墓参りしてないじゃないの!!だから、毎晩毎晩出てきてあげたのに。」
「あわわわ。だ、だからって種踏み潰すことは無いだろお?」
「あのねえ!!あんた農業に打ち込んだら、収穫までほとんど何もしないでしょ!!」
「・・・」
侘蔵に返す言葉は何も無かった。
それから、なんとその妻は1時間も説教し始めたのだ。
ただひたすら「へえ。へえ。」とばかり言う侘蔵を見て一哉は「夫婦の仲とは難しいものだな・・・」と呟いた。
「そうですか?私はそうは思いませんよ。ほら、あの人たちだって物凄く暖かいじゃないですか?一哉様。」
そう、佐奈姫はしみじみと言った。

ようやく説教は終わったらしく、妻は自分で成仏して行った。
もう夕方になっていた。これで、侘蔵も農業に打ち込めるだろう。
「どうも、ありがとうごぜえました。」
侘蔵は深々と頭を下げた。
一哉と佐奈姫は、侘蔵の家を後にした。
帰り道、一哉は呟いた。
「久しぶりだったな。それでも、こんなのは、まだ平和なものだ。」
「そうですね。」
こうして、一哉の一日は終わった。帰ってから一哉は、「いつまた依頼が来るかのだろうか。」ということを考えていた。
しかし、この後とんでもない怪魔が出てくることを一哉はまだ知るわけが無かった。







あとがき
第2弾「妖縛記」です。
これは、まだ1章なので続きをお楽しみに。
しかし言葉遣いは難しいですねえ。イライラして、編集途中で録画したアニメ『エレメンタルジェレイド』を見てみたり。
先が思いやられますねえ。
さて、ピー・・・。いやいや貴さんが小説を一気に2つ掲載。
お互いに、触発されてまふ。
まあ、その他のことは「武神の世紀末日記」で・・・
ではまた今度(うおっしゃー!!(!?)


すたっふりすと
ディレクター:武神
シナリオ:武神
人物設定:貴、武神
プロデューサー:息吹
エグゼクティブプロデューサー:貴
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