「私」は１人だった。
「私」は、昔から他人の心の中を手に取るように覗きこめたから。
何故「私」にそれができたのかは分からない。
生まれつき、そうだった。はじめは、暖かい-ぼんやりしてるけど-とても暖かい。
そんな心しか流れて来なかった。
それが変わったのは、いつごろからだろう？
暖かいだけだった気持ちが…少しずつ…少しずつ暗く澱んでいったのは…
いろんな感情が流れ込んできた。 みんな、それぞれに違う感情だった。
でも、ただひとつだけ同じ気持ちがあった。
…それは…恐怖。
「私」は…
……恐れられている？
…何故？
何も分からなかった。
ただ、それ以来かな。
「私」が…死んだのは。
私が死んで…「ボク」が生まれたのは…
きっと…その時。
ボクは、その時生まれた。感情の嵐から、恐怖から、「私」を守るために。
怖かった。
他人の気持ちが手に取るように分かってしまう。
みんな、ボクから離れていった。
ボクも…みんなを追いかけなかった。
だって…
怖かった…
みんながボクを怖がるのが…怖かった。
うわべはみんな優しいけど、その根底にあるのは、紛れもない「恐れ」。
みんながホントの気持ちを隠すから…
ボクも、隠した。
本当の「私」を。
常に他人の影に隠れて、自分を隠した。
みんな…大嫌いだった。
それ以上に…
ボクは、「私」が憎かった。
「私」のせいで…
ボクが…生まれたから。
いつか…
ボクは…
「私」を……
ボクはそれから、漫然とした時を過ごしてきた。
ただひたすらに、他人を拒絶するだけの日々。
そんな日々が…安らかで
そして…ただただ憎かった。
ボクは…世界で…ただ一人
親に捨てられる前も、捨てられてからも、本質的には何も変わらなかった。
そんなボクの前に、「あの人」がやってきた。
「あの人」は、ボクにこう言った。
「天使に、ならないか？」
感情を捨てた、見下ろすだけの天使。
他人を拒絶し続ける天使。
ボクは…それから…天使になった。
拒絶するだけの天使。
ただ、「あの人」の言いつけを守って。
「あの人」の求める
「完全な天使」に
近づくために
ボクが天使になる時、「あの人」はこう言った。
「他人を受け入れるな
拒み続けろ」
ただそれだけ。
それが、ボクのすることの全て。
天使に許された行為は…
他人を拒絶すること。
ただひたすらに、拒絶すること。
高い高い、天の上から。
ボクの他にも、天使はいたんだ。
でもボクは、他の天使たちさえ拒んだ。
それが…ボクに許されたことの全てだから。
地上の人間は…
皆ボクを妬み、恨み…
そして、恐怖した。
恐怖だけは、いつも変わらない。
それだけが、ボクのいる意義。
「私」を、恐怖から護るために。
他の6体の天使たちも、「あの人」に従っていた。
満たされないものを抱えながら、ただ「あの人」の為に。
ボクも、そのためだけに。
それが、正しいと思ってた。
でも…
「彼」に会ってから、ボクは少しだけ疑問を持った。
「彼」のような人は、初めてだったんだ。
心を読めるボクを前にして…
恐れない人は。
「彼」なら…
ボクの心に、はじめて…
「拒絶」以外の感情が浮かんだ。
「私」が「ボク」になる時に…
捨ててしまった感情が。
今振り返っても、その感情が何なのか…
「ボク」には分からなかった。
「彼」は、最初はどう思ってたのかな？
親しみ…ではないね。
多分…憐れみだった。
ボクは、何故自分が憐れみの対象になるのか、全く分からなかった。
それどころか、「憐れみ」なんて気持ち、本の中でしか分からなかった。
だって…
１人でいた時間が、長すぎたから。
１人でいることが…
つらいなんて…
考えられなかったから。
ボクはいつも通り、「彼」も拒絶するつもりだった。
でも…「彼」は…
ただ優しく…ボクを見ていた。
その心の中には、嫉妬も、憎しみも無く
ただ暖かかった。
「彼」を、最初ボクは拒絶した。
いつも通りなのに、なぜだか、違和感を感じた。
…寂しい？
そんな風に思ったことなんて、これまで一度も無かった。
そういう気持ちさえ、知らなかった。
「彼」は…
どうしてだか、もう一度ボクに会いに来てくれた。
何故か、無性に嬉しかった。
「彼」は、それからもボクにたびたび会いに来てくれた。
はっきりと、嬉しかった。
それが単なる憐れみだったとしても、それ以外の気持ちだったとしても…
ボクは、「彼」を受け入れた。
それが、決して許されないことだって事も…
十分、分かっていた。
一瞬の安らぎは…
終わるのも、一瞬だった。
「彼」は、ある時を境に来なくなった。
寂しかった。
そして、また他人を拒絶するだけの日々が戻ってきた。
ただ「彼」を待ちながら。
そんな時、「あの人」が来た。
そしてボクは理解した。
「彼」とは、もう永遠に会えないことを。「彼」が、もう世界の中にいないことを。
「あの人」は、ボクに言った。
「忘れるな。
天使できるのは
ただ拒むだけ。」
…違う
……ボクだって…
それ以来、ボクはまだ天使でいる。
高い高い天の上から、他人を拒絶するだけの天使。
いつか、この天から…
戻れることを信じて。
そう思えるのは、きっと「彼」がいたから。
そして、天から戻った時
ボクはいなくなる。
ボクは、もう必要なくなるから。
ただ、それまでは
ボクは、「私」を護る。
いつか…
空の上から、戻れる時まで。
(終)
心の護・後書き
貴さんと武神さんに触発されて書いた小説です。
…ここまでグダグダポエム化するとは…
一応、ポケモンのリラをメインにした2次創作です。
解釈によって蒼星石にもとれるように書いてみました。
ど〜もこの2人は似てるような気がして…
と、お目汚し失礼しますたm(_ _ )m
07年12月