注意！この小説は14人の主人公シリーズでありますが、シリーズでは異色の
「複数人に渡る語りや登場人物以外の、いわゆる第三者の語り」
において物語が展開します。それゆえに、読者が場面ごとの語りを把握するために場面の最初に語り、○○○。を挿入させていただきます。
オープニング。語り、代田天四郎。
私たち人間は日常生活の中で、兄弟や友人から「死ね」だとか、「消えろ、失せろ」などと言ったり言われたりします。
でもそれは、ものの、たとえなわけで・・・。
--代田天四郎 田中一郎 田中次郎 代田筑紫 村本勇気 神童秀正-- --製作：Website"taka city"--
殺人予定前日。語り、田中次郎。
俺の夢は、有名な一流レーサーになること。えっ？一流になったら有名にならないかって？
そう、そこが問題なのだ。俺は今のままでも十分世界に通用するレーサーだと自負している。
なぜ、一流のレーサーであるという自負があるかというと、実際に俺は世界中のトップレーサー相手に互角のレースをする。
なら、なぜ有名になれないのか。それは簡単なこと。俺が一卵性双生児で生まれた田中一郎の影武者に過ぎないからだ。
普段の俺は車の整備士として勤めている。しかし、その兄である一郎の不得意なコースとなると俺がかわりに出ているのだ。
顔は、元々一卵性双生児のためそっくりだし、兄が覆面レーサーとして活躍しているから顔が見えないから、俺なのか兄なのかわからないのだ。
そのため俺は有名になれないしあくまでただの車の整備士でしかなかった。
兄は人前でずっと仮面をかぶっているため周りの人間は兄弟であるということすら知らなかった。
実際のところ、兄より俺のほうがずっとレーシングがうまかったのだが、兄であるということだけで名声は兄が思うがままに使っていた。
賞金も一切俺に入らないし、実に腹立たしい。
しかし、そうしないと兄にはバックにある組織がついているため、抵抗できなかった。
そこで、俺は誘導尋問のように兄と口げんかをし始めた。そして、殺してやるといったのは良いが、やはり気が治まらない。
やはり、実際に殺してしまうのがよいらしい。
そして俺は仮名を使って兄とは無縁のレーサーとしてデビューする。
組織は俺と一郎が兄弟であることは知っているから組織に兄の代わりに俺を使ってくれと頼む。
なんとすばらしい作戦だ、さすが俺。
それを考えていなかったのかと突っ込まれそうではあるが、まず殺し方を考えなければいけない。
アリバイ工作ができて、ほかに人手を借りない殺し方といったらどのようなものがあるだろうか。
銃殺や、刺殺は誰かに見られてる可能性もあるし、見られなくても防犯カメラに移ってるかもしれない。
実際に見て無くても証言はいくらでも入るだろうし。
そこで俺はひらめいた。
車を使って殺す。しかもまるで事故死であるかのように。
コースは、兄が得意とするコースで、なおかつカーブの部分にちゃんとフェンスが存在するところが良いな。
それからスピードの出るコースじゃないとフェンスにぶつかったときに小爆発で終わってしまうから、スピードの出るほうがいい。
うむ、ツインリングもてぎスーパースピードウェイにしよう。
それから、車はスピードが出て、オープンになっていない車が良いな。
なぜオープンになっていない車がいいかというと、毒殺するのだ。
兄が車に乗り込み、走り始めると同時に車の中にあらかじめ用意しておいた装置から毒ガスを発生させる。
車にはあらかじめその装置と、空気が漏れるような穴をすべてふさいでおく。
もともとオープンな車じゃなかったら、見た目は大して変わらないからな。
オープンだと、本来無い場所にフードを作る必要があるから論外なわけだ。
そして、走っている間にどんどん車内が毒ガスに汚染されて、運転している兄は途中で気を失う。
そのままカーブでハンドルを切れずにドッカーン！と。
高速で突入するから車は大爆発を起こす。車は木っ端微塵。装置なんて跡形も無くなる。
そして兄はその爆発で死亡。
俺は当然その場所にいないし、どこからどうみてもただの事故ということになる。
われながらアリバイ工作も何もかもが完璧な非の打ち所の無い作戦だ。さすが俺。
しかし車はどれにしようか、兄や俺が普段から乗っているアウディR8は思いっきりオープンだしなあ。
時たま使うADVAN KONDO RACINGもオープンだ・・・。
ひらめいた車はマクラーレンF1だった。
しかし残念なことにマクラーレンは若干遅いし、何より高価すぎて持ってない。
ここまで来て挫折するのか、俺。
いや、まだ何もやってないがな。と、失笑を誘ってみてどうするんだ。
そこで俺はすぐさま兄の持っている車をすべて調べた。
すると、実に好都合な車があった。EXP SPEED8だ。スピードが出る上に、フードがある。
しかし、普段アウディを使っている兄をどうしやってスピード8に誘致すればよいのか。
よい案がひらめいた。アウディもコンドーも故障中ということにすれば、ほかの車といえばスピード8しかない！
やっぱ俺って天才なんじゃない？
このまま無名で定年退職して普通に死んでいくのは実に宝の持ち腐れ、というやつか。
有り余る才能を爆発させることができぬままおわるなんてな。
そんなのまったくごめんだぜ。
とりあえずしなければならないことをすべて消えないようにボールペンでメモして、俺は早速準備にかかった。
幕間。語り、第三者。
しかし、この次郎が非の打ち所の無い作戦と自画自賛するこの殺人計画には実はいくつもの非の打ち所があるのを、
次郎はまだ知る由も無かったのだ。唯、次郎が気づかなければならなかったことは、
一卵性双生児の兄弟とは言えども、別居しているために個々の情報はあまり入ってこないということを。
それから、紙に書いたらどこからか情報が漏れるということを。
殺人予定当日朝。語り、一郎。
最近弟の次郎に何かとつっかかる。いや、つっかかられているというのが正しいか。
まあ、いざとなったら裏で手を組んでる組織とつるんで次郎を殺害するのみ。
さて、気持ちを切り替えて、今日は久々に俺のもっとも得意なコースだ。
新しく買った車でレースに挑もう。そういえば、まだこの車誰にも見せてないな。リストにも載せてないし。
周りの人間の驚く顔が楽しみだ。ははは。
殺人予定当日昼。語り、次郎。
ついにこのときが来た。一郎よ、今に見ておれ。ふっふっふ。
そして待つこと数分。一郎が来た。
「あ、一郎さん！ちょっとちょっと」
一郎を呼び止めた。
「どうしたんですか、整備士さん。」
兄弟としてはありえない呼び方だが、兄弟であることを回りに悟られてはならないので、そういう呼び方をしている。
そして、またこの天才の俺が大の得意な誘導尋問もどきに出た。
しかし、予定は崩れ去った。
一郎が、今日は新しく買った車で挑むからと抜かし始めたのだ。
いまから車を改造するには時間が足りないし、第一どうやらまたオープンな車なようだ。
俺の計画は無残にも崩れ去った。
しかし、希望はまだある。次回に持ち越そう。車はすでに整っている。
俺はあのメモを何のためらいも無くそのままゴミ箱に捨てた。
なぜならこの計画を知っているのは俺だけだし、どこの誰がこんな紙をいちいちチェックするのかという話だしな。
同時刻、別の場所。語り、第三者。
「いいんですか〜？私たち親子に眠る賢者の血を呼び起こすためにひとつの命を奪うなんてことをして〜。」
そう聞くは代田天四郎。返すはいつもいつも謎の人物、神童秀正。
「なーに、昔から決まっておったことですじゃ。それに彼が死ぬのはわしのせいではないぞい。
彼が死ぬのをただ利用するだけですじゃ。おまえさんの眠れる賢者の血を起こすためにな。
当時、14人の賢者がおったのじゃ。」
話の途中で割り込むは天四郎の息子筑紫。
「その話は知ってるよ。賢者の記憶はボクにも続いてるけど、その賢者の血が目覚めていない。かなしいな。
『推理』の賢者の血が復活すれば、もっと賢くなれるのに。
今でも十分といえば十分だけど。」
話を続ける神童。
「わしを除く13人のうち5人はわしが起こした事件によって一応賢者の血が目覚めたのじゃが、彼らはどうもいまだに気づいていないらしいですじゃ。
この4人は完全に賢者の記憶すらなくなっているものじゃったから、いろいろと苦労したものじゃが・・・
おまえさんは覚えているから実に手っ取り早いのう。『知恵』『勇気』『人情』『技術』『医術』の次は『推理』かの・・・。
しかし、あと1人だけ消息がつかめんのじゃ、じゃからはやくおまえさんに復活してもらって探さないといかんからな。」
よっぱらっているのか、ただ物思いにふけっているのか、文法が崩れてていまいちはっきりしない神童である。
ここで、豆知識としてこれだけは抑えておこう。
知恵とは、斉藤家のことである。
勇気とは、司山家のことである。
人情とは、坂家のことである。
技術とは、海田家のことである。
医術とは、瀬田家のことである。
いわずもがな、推理とは代田家のことである。
ちなみに、神童家は魔術である。
このように、神童がいろいろと物思いにふけっていると、天四郎が一言。
「さて、事をさっさと終わらせるために、極力証拠となるものを集めておくべきだと思うんですがね〜」
すると神童は思い出したように
「おおそうじゃ！まずワシが20くらいの青年になって・・・」
神童は青白く光るまばゆい光に包まれた。
まばゆい光が収まると、そこには先ほどまでの髪の毛が真っ白でひげもじゃの70くらいの老人ではなく、
なんと驚くべきことに20歳くらいの若々しい青年となった神童秀正がいた。
そしてしゃべると声までも若返っているようだ。
「おおやはり若い体はらくですね。しかし、魔術で変身したこの体は本来の姿ではないゆえに、
何もしていないときでも魔術を使うから結構疲れるのだよな・・・」
どうやら口調も若返ったようだ。
神童はさらにつづけた。
「これからゴミ収集のバイトをして、あのメモを探してくるので、まっとれ！」
かすかに老人の口調が残っているようではある。
とにかく、そういい残して、神童は勢いよく飛び出した。
なにげに代田親子は物思いにふけって、
「本来の姿ではないとはいえ、ああやって見た目を変化させることができるというのは、実に便利ですね〜・・・」
「だね、父さん。」
「しかし、気になっていることがひとつだけあります〜。
私たちは最初から犯人のことを知っているわけですから、それで賢者の血が、目覚めるとは思えませんしねえ。」
ごみ収集。語り、神童秀正。
まもなく、問題の場所だな。お、到着。
しかし、ゴミ袋を回収したは良いが、どうやって中の紙を取り出そうか。
そういえば、魔術を使うという手があるな。よしそうしよう。
いやまてよ。そうやってゴミ袋から魔術でメモ帳を取り出すなら、別にわしがごみ収集をしなくとも、あの場所で取ればよかったんですなあ。
しかしながら、アリバイというか、何故われわれがこのメモ帳を持っているのかという理由になるか。
でもわしの体は普段は爺。したがってわしは次郎の前で一人二役をする羽目になるのか。
それまでには何故ゴミ袋に入っていたものがごみ収集の人が持っているのかどうかという理由を考えなければならないな。
とりあえず、わしは魔術を使って中のメモ帳を取り出すことに成功した。
事件当日。語り、次郎。
ふっ、ついにこの日が来た。憎き兄をこの世から、この宇宙から消滅させる日が。
今日のもてぎスーパースピードウェイは若干グリップ力に欠けているようだ。
かなりラッキーだな。
お、レースが始まった。オレにはアリバイがあるからな、絶対につかまらねえ自信がある。
しかも、周りの人間とかも俺の行動を知っているから不審な行動は無かったといってもらえるし。
おや、早速ふらつき始めた。
車内。語り、一郎。
なんだか息苦しいな。めまいがしてきた。
気をしっかり持て、俺。
・・・。このままじゃ、、じこっちまうぢゃなぇけうぁ、おえ。いすくがもーとおろして・・・。あぁ
（・・・。このままじゃ、事故っちまうじゃねえか、俺。意識が朦朧として・・・。あぁ。）
事故の瞬間。語り、第三者。
弟、次郎の手によってずいぶんと前から車に仕掛けられていた毒ガスによって、遂に兄、一郎は意識を失った。
時速300キロ以上で走る車はそんなことには目もくれず、走り続けた。
意識を失った一郎が倒れた先はハンドルであった。
高速で走っている車はそのハンドル捌きによって、スリップした。カーブ直前のことであった。
普段なら無事に曲がれたかもしれないカーブであるが、昨今の悪天候によってグリップ力が低下しているこの道路の上では車は横滑りを起こす一方だ。
通常、グリップ力の低下しているような日は、タイヤを替えるものであるが、おそらく次郎はそれをしなかったのだろう。
そして、悲劇は起こった。300キロ近くで走行していた車はスリップすることによって若干スピードを落としてはいた。
しかしそれでも車は壁に激突した瞬間、爆発した。
もちろん、中の一郎は即死。
作戦は、成功したのだ。
次郎は、表向き驚きを隠せないような態度をとったが、内心ではとても喜んでいた。
しかし、この表向き驚きを隠せないという態度が悲劇を生み出すこととなる。
そしてこの事故が起こった瞬間、にやりとした人物がもう一人いた。
神童。「あれほど、一緒に住んでいるから壊してはならない、といったのに・・・。伊吹さんにですが。」
熱戦の舞台はたちまち悲劇の舞台へと早変わりした。
最強のレーサーと評された一郎のまさかの死。
観客らはあわて、ふためいた。
みな、言葉にならない悲しみに襲われた。
しかし、一人、次郎の行動に疑問を持った人物が冷静に考え事をしていた。
その名前は、村本勇気。坂銅太郎の同級生である村本元気の父親である。
赤の他人である次郎がなぜ最強のレーサー一郎の死にそこまでショックを受けなければならないのか。
普段の二人の関係から見てもそれほど仲がいいとは思えないのだが、と。
そのころ、次の行動に、神童ら3人は動き始めた。
「いいかの、わしは天四郎、お前の推理を補助するだけじゃよ。相手に反論されないように、しっかりと証拠を調べるのじゃ。
決して、そのメモ帳だけを証拠にしてはならんぞ。
ずっと前のことじゃが、あるIT企業が問題になった際、メールだけをあげた議員がその後ひどい目にあったこともあるのじゃ。」
そうこうしている間に、天四郎の携帯電話に一通の電話が入った。村本勇気だった。
あの、次郎の妙な行動についてだ。
天四郎の息子である筑紫と、勇気の息子である元気は同級生であったため親同士も交流があったので、こういうことが可能なのである。
ちなみに今はまださほど重要ではないが、彼らの祖先も14の賢者の一人なのである。『知識』の村本。
やはり勇気も賢者の記憶はあるらしい。本人談。
そして、そのため、『推理』の天四郎に電話したのである。
代田天四郎もこの電話についてはかなり感謝したらしい。
遂に事故現場に到着した。
いよいよ、天四郎の本来の職、刑事の仕事、それからこれからしなければならない天四郎の推理ショーの幕開けである。
しかしながら、まだ天四郎は結末を知っていながら推理するものはいかなるものかと考え込んでいるようである。
しかたがないので秀正は天四郎のその記憶を消し去ることとした。
さて、気を取り直して。天四郎の推理ショーの開幕である！
推理開始。語り、天四郎。
さてと、記憶を失ってしまったので本気で推理をすることが出来ますね〜。
まず最初に、これはただの事故死では無いのではないでしょうか〜？
それでは、事故現場に、行ってみるとしましょうか。
なるほど、これはひどい事故ですね〜、ちょっとそこの検事さんですか？司法解剖をおろしくお願いしますね〜。
あ〜、それから話とは何ですか？村本さん、今日はワタクシ忙しいのですが―。
なんと、赤の他人の整備士の次郎さんが一郎さんの死を大変悲しまれたと。
しかし、それがどうかしたのですか？
なるほど仲はそれほどよくなかったのですか。調べてみる必要がありそうですね〜。
え？さきに電話でそのことを伝えたと！？それはそれは・・・。秀正さんがこういった情報まで消してしまったんでしょうか。
筑紫、お前は車をよく調べておきなさい、何か手がかりがあるかもしれませんからね〜。
機械系は得意でしょう？
それから秀正さん、あなたから受け取ったこの紙は後であなたにも証言してもらうわけですが、仮名は普通に正秀さんということでよろしくおねがいしますよ。
あとは適当に情報収集をして置いてください。ワタクシは村本さんが言っていた彼に会ってきますから。
さて、ちょっと、田中次郎さん、失礼しますよ。
「なんですか、いったい？」
いきなりそう怒らないでほしいものですね〜。
「さて、あなたも田中一郎さんがお亡くなりになったのはご存知なんでしょう？
それで、少しばかり事情聴取をしにきたわけです。」
「悪いけど俺は彼と同じ苗字だけど兄弟なんかじゃないぜ？」
いきなりそうきましたか。しかしこれは後で役に立つかもしれませんね〜。まだ彼が犯人だと特定されたわけじゃないですが。
「いえ、それを聞きに来たのではありません。
今はあなたもさぞ精神不安定になっていると思われますので、後で連絡しますからこの手帳にあなたの連絡先を記していただけませんか？」
「わかった、わかった。」
これで少しばかりの情報を手に入れることが出来ました。
おや、何か電話が入ったようです。
「あぁ、天四郎かの？今回事故死した田中一郎氏と整備士の田中次郎氏はどうやら同じ生年月日のようですじゃ。」
なるほど、兄と弟というわけではないが双子なのですか。確かにうそではないですね。
さてと、筑紫は何か手がかりを見つけたのでしょうか〜？
何、空気が漏れそうなところを防いであったと思われるあとがあるということですか。
おや、いいころに私の知り合いの刑事さんが駆けてきましたね。たしか片山とかいったかな。
なにか情報を得たのでしょうかｎ・・・
「田中一郎の使用した車種です。これを見ると今回利用したスピード8という車は購入した際に一度だけ使われて以来使われていなかったようです。
しかもこういう形の車種はこれひとつのみのようでありまして。」
なるほど、これはまたよい情報ですね〜。
しかしながら、ワタクシがしゃべっている途中に話し始めないでほしいものですが。
おぉ、もうこんな時間のようですね、続きは明日といたしましょう。
日が明けましたが今から次郎さんの家を訪問しなければならないようですねえ。
しかし寒いですね〜。もう暖炉で暖まって―
いるはずは無いのですが。なにしろ一戸建てではないので。
失礼しますよ、次郎さん。
「なんだ、またあんたか。今度は何のようだ？こちとら慈善事業でこんなんに手伝わされてるんじゃないんだからさっさと帰ってくれ。」
まったく、この人はよほどワタクシを毛嫌いしてるんでしょうかね〜。
「で、なんのようなんだ？」
「実はですね〜、一郎さんがなくなった際にあなたは他人であるにもかかわらずさぞ嘆き悲しんだようですね。」
「俺はあぁいう性格なんだ、なんかもんくあっか？」
「それがどうも不自然な悲しみ方だったという証言があるんですが。いくらなんでもそこまで悲しむ必要は無いと思いますが。
しかも別の証言によるとさほど親しいというわけではなかったようですが。むしろ機械的に言葉をやり取りしていたという印象が多く占めています。」
「仕方ねーだろ、双子なんだから悲しいフリをしないと不仲がばれてしまうだろ！・・・・しまった！」
「やはり親族だったんですね、苗字も生年月日を同じですし、顔もそっくりですし、双子なんかじゃないかと予測していました。」
「だ、だからといって俺はあいつを殺してなどいないぞ、アリバイならあるだろ！」
「いえあなたを逮捕しに来たわけではありません。何故一郎さんにわざわざ一度しか乗ったことの無いスピード8を使わせたんですか？」
「他のが壊れてたんだよ。」
「今も、ですか〜？見せていただけませんか〜」
「いや、さっき直した。もう動く。」
「そんなに簡単に直せるのならもっと早く直しておけばよかったと思うんですが。それがあなたの仕事でしょう？」
「・・・。直前まで気づかなかったんだよ。」
「それからいろいろと加工がされていたようですが。」
「俺は間違ってもスピード8に加工なんてしてないぞ？」
「ワタクシはまだスピード8にと入ってなかったのですが・・・。」
「うっせーな、でていけ！」
まったく、荒っぽい人ですね〜。
おそらくこれで特定できました。彼が犯人でしょう。
おや、また電話がかかってきたようですね。
なに、毒ガスが撒かれる装置がついていた可能性があるんですか？
それから司法解剖の結果は一応は事故死でしたか・・・。
ただ体内に毒素が混じっていたと。
筑紫、お前はその装置を販売している国内の店をこの事故の1ヶ月前までの分防犯カメラなどをチェックしなさい。
秀正さんにもそう伝えておきなさい。
検証途中。語り、第三者。
毒ガスを販売しているすべての店を探したがどの店もこの1ヶ月で購入した客はいないということだった。
防犯カメラも念入りにチェックしたようだが、すべてはずれだった。
そこで天四郎は使用車種、コースから別の日に殺害したかったのではないかという推測をした。
筑紫、秀正はその時期の情報をいっせいに調べた。
するとそこには毒ガスを購入する次郎の姿が映っていた。
筑紫、秀正がそれらを調べている間も、天四郎は積極的に次郎の家に訪問した。
そこからかなりいらいらしていた様子の次郎が自分が一郎の影武者であったということも吐いたようだ。
まもなく事件は幕を閉じる。クライマックスの始まりである。
幕間。語り、天四郎。
私は第一印象だけで犯人を決めている、という人がたまにいますが、私は決して印象だけで犯人を決めたことはありません。
今回の事件だと、次郎さんがスピード8に加工した、と不用意に口をすべらせたことで、彼が犯人だと確信しました〜。
さて、今日の問題は、彼がどんな加工をしたか、ということです。
・・・皆さんもご一緒に考えてみてください・・・。
逮捕当日。語り、次郎。
最近は、まったく刑事が毎日のように来て困る。かなり目をつけられているのだろうな。
しかし、オレにはアリバイがあるし何しろ毒ガスが発見されたとしてもずいぶん前の計画の際に購入したものだからここ1ヶ月程度ではわからないだろう。
ピンポーン。
またか。
「今日は何の・・・」
げっ、今日は一人じゃねえ！
「あなたを逮捕しに来たんです。」
「な、なにをふざけたこと言ってんだあんたら！？」
俺は相当気が動転していた。
「あなたは、兄の一郎さんばかりが脚光を浴びているのを恨んで、一郎さんを殺害したんですね〜？」
「それはない。」
「こちら、清掃業者に勤めていらっしゃった外国籍も持っているネシンリッサト（本当は、神童という漢字をばらしただけ）正秀さんが、
このような手紙をゴミ袋から落ちていたのを拾われたんです。殺人をどうするかをメモされたこの紙を。
このメモに従えばあなたはアリバイが出来ますし、車をあれに選んだのも理解できます。」
まさか、あのメモが人手に渡っていたとは・・・。
「それはぜんぜん根拠になってないだろ！？
誰かがいたずらで書いたのかもしれないじゃないか！」
それはそうだ。俺が書いてなくても別にかまわないのだ。いたずらにしてしまえば―。
「ワタクシもその可能性は十分に考えましたが。これはあなたが書いたものですね〜。残念ですが。
実はあなたに最初に会ったときに書いてもらった連絡先はあなたの文字です。
あれとこのメモのコピーを筆跡鑑定士に見てもらったところ、99パーセント同一人物による文字だということがわかりました。」
最初の日にあまり聞かずに連絡先だけ聞いて返ったのはこういう意図があったのか！
「だ、だからしかしって・・・
失礼。しかし残りの1パーセントの可能性もあるだろ！？」
「しかしですねー。あなたはスピード8を改造してないと私が聞いてもいないのに発言しましたね〜？
これは心理学的にあなたがスピード8を改造したことを意味してるんですね〜。
ご存知ありませんでしたか〜？」
「でもそれがどうしたんだ？使いやすいように改造するのは・・・」
「使いやすいようにではないですね〜？あの日グリップ力が悪かったのにノーマルのタイヤを着せたことがそれを物語っています。」
し、しかしここまで追い詰められたが毒ガスにはまだ触れられていない！何とかして言い訳を考えなくてはいけない！
「・・・それから、あなたが数ヶ月前に事故にあったスピード8に設置していた毒ガスと同じものを購入してるんですねー？
こんなもの、一般人にはあまり必要ないものですが、あなたはこれを何に使ったんですか〜？
こんな毒ガス、一部の専門の方しか買わないと聞いていますが。
それから整備士のあなたが何故スピード8についているものを気づかずそのまま走らせたんですか〜？
スピード8は空気が漏れないように加工されていました。
一郎さんの体内からもこの毒ガスと同じ成分の毒素が検出されました。
つまり、お兄さんはこの毒ガスによって意識を失ってしまったんですね〜。
もしかりにこれがあなたが購入し設置したものでなくても、お兄さんが使った車は、あなたしか触れないわけですよね〜？
しかも他の車があるのにわざわざ空気が漏れないように加工した車なんて、ね？
すべての事柄を無理なくつなぎ合わせることが出来るのは、そう！あなたしかいないんです！
なにか、異論でもありますか？」
次から次へといたいところを突かれて俺は反論はおろか言葉すら発することが出来ない！
俺は、天四郎とか言う刑事の思う壺だったのか！
俺は、俺は、もうだめなのか？
俺は、俺は、一流で有名なレーサーになりたかったのに！
俺は、俺は、俺は・・・
エピソード5、完。
スタッフロール
出演
代田天四郎（貴の友人の父）
代田筑紫（貴の友人）
村本勇気（貴の友人の父）
神童秀正（貴の友人）
田中一郎
田中次郎
片山善次郎
その他貴の周りの皆さん
参考
いろいろフラッシュ保管庫
衣装
なし
インスパイア
古畑任三郎（フジテレビジョン）
原作
三谷幸喜
音楽
なし
ディレクター・プロデューサー・アドバイザー・デバッグプレイ
息吹
エグゼクティブディレクター・エグゼクティブプロデューサー
貴
構成・シナリオ
貴
息吹
ネームデザイン
いろいろ
製作・著作
Website"taka city"
ここから下にはこの物語を書くに当たっての設定や、説明などが記してあります。
人物設定
代田天四郎―14人の賢者『推理』の血を引く人物。本職は刑事。45歳。
村本勇気―筑紫の同級生の父親。42歳。
代田筑紫―天四郎の息子。機械系に強い。天才。16歳。
田中一郎―有名な一流レーサーとされていた。しかしその実績はほとんど弟による。享年29。
田中次郎―一郎の双子の弟。一郎を殺害する。29歳。
片山善次郎―天四郎の仕事仲間。37歳。
神童秀正―14人の賢者の血をよみがえらせるために働く老人。自身も『魔術』の血を引く。72歳。
（人物名の読み仮名・・・上から順に
よだてんしろう、むらもとゆうき、よだつくし、たなかいちろう、たなかじろう、かたやまぜんじろう、しんどうひでまさ）
※本作より詳しい設定を省かせていただきます。
自動車の説明。
アウディ―ル・マン24時間耐久レースで前代未聞の3連勝を達成した。
スピード8―ルーフ型プロトタイプとして他社と差別化を図った。
KONDO―日本車。堂夢開発。
あとがき
今回は、古畑任三郎のインスパイアとしてかなり口調など苦労しました。
そして、調子に乗って長くなりすぎました。
今までとは違う語り部でしたが、お楽しみいただけたでしょうか。
いつもいつも思うことですが、なかなか100パーセントのものは出来ないものですね。
それからこれは時が来たと同じような現象なのですが、肝心の部分が意外と短かったり。
終わり方がいつもと違う終わり方だったわけですが、この後次郎がどうなったかは想像してください。
しかし、古畑が終わった記念に書き始めた作品がまさかここまでずれ込むとは、書いている私も予測できませんでした。
ところで、突っ込まれる前に書いておきますがこの田中一郎さんは別にかの有名な某野球選手の名前からとったわけではありません。
単に名前を考えるのが面倒だったわけでして。花子以来ですね、名前で手抜きをしたのは（笑）
それから片山刑事がでてきますが彼は別に某小説からぱくったわけでは―
いや、パクりました。苗字だけですが。やはりだんだん人が増えてきて名前をつけるのがだんだんと面倒になってきてしまいまして。
いろいろと監修していただいた息吹さん、ありがとうございました。
あと、出来るだけ原作と孫色無くするために今回スタッフロールは上に載せましたのでよろしくお願いします。
2006年4月23日エグゼクティブディレクター記す。
今後の製作予定は今のところ未定です。
なおこの作品は時代的にホワイトジャックから接続されています。