イスタンブール歴史地域
Historic Areas of Istanbul
概要
イスタンブールは、ヨーロッパとアジアの両大陸にまたがる都市として、4世紀以来2つの大帝国の都となった。4世紀にコンスタンティノープルの名前でキリスト教国のビザンツ帝国、いわゆる東ローマ帝国の首都として、15世紀以降はイスラーム国家であるオスマン帝国の首都として、それぞれの時代にヨーロッパとアジア両方の文化と富を吸収し、また双方の時代を通じてイスタンブールは2つの文化と宗教が重なり交じり合い数々の傑作建築を生み出した。世界遺産としてのイスタンブール歴史地域は、イスタンブールのヨーロッパ側の旧市街に位置し、アヤソフィア、ブルーモスク、トプカプ宮殿といった両帝国の繁栄の歴史を今に伝えている。紀元前より連綿と続くこの街は、2015年現在でも新たな考古学的発見が続いている。
基本情報
遺産種別/登録基準
文化遺産/(i),(ii),(iii),(iv)
登録遺産位置
トルコ共和国イスタンブール市
北緯41度0分 東経28度58分
登録遺産面積
資産 678ha
登録年月
1985年
登録基準の具体的内容
(i)
イスタンブール歴史地域には、532年から537年にかけてトラレスのアンテミオスとミレトスのイシドロスによって建設されたアヤソフィアや、1550年から1557年にかけて建築家スィナンによって設計されたスレイマニエ・モスクの複合施設といった、ビザンツ帝国からオスマン帝国の時代にかけての特有の建築上の傑作として知られている遺産が含まれる。
(ii)
歴史を通じて、イスタンブールの構成遺産はヨーロッパと近東の両地域における建築、モニュメンタル・アート、空間の利用法の発展に大きな影響を及ぼしてきた。例えば、447年に造られた6650メートルに及ぶ二重の壁をもつテオドシウス2世の城壁は軍事建築の偉大な参考例となったし、アヤソフィアは全ての教会建築や後世のモスクの原型となり、またコンスタンティノープルの宮殿と教会のモザイク装飾はアジアとヨーロッパの芸術に影響を与えた。
(iii)
イスタンブールは幅広い建築様式の多くと幾つかの関連する作品の優れた例を通してビザンツ帝国とオスマン帝国の文明の痕跡を残している。それらは、要塞、教会、そしてモザイクとフレスコに彩られた宮殿、モニュメンタルな貯水槽、墓、モスク、宗教学校、浴場建築である。スレイマニエとゼイレック地区の主要な宗教施設の周囲にあるその土地独特の建築は後期オスマン帝国の都市様式の優れた証拠である。
(iv)
イスタンブールは、人類史上非常に著名な時代を描き出した建築的かつ技術的な全体調和を示す建築の一つのまとまりとして極めて優れている。特に、トプカプ宮殿と、様々な施設、例えば隊商宿、マドラサ、医学校、図書館、浴場建築、休憩所、皇帝陵墓を併せ持ったスレイマニエ・モスクは、オスマン帝国時代の宮殿と宗教的な複合体の全体調和の例として最上のものである。
ギャラリー
ボスポロス海峡
ボスポロス海峡はイスタンブールの町の中を貫いている。ボスポロス海峡の東がアジア、西がヨーロッパ。写真はトプカプ宮殿から撮影され、手前がヨーロッパ側で、奥がアジア側。トプカプ宮殿以外の構成資産もヨーロッパ側旧市街に集中している。
トプカプ宮殿
トプカプ宮殿はオスマン帝国の支配者、スルタンの居城。1465年頃に完成し、19世紀半ばまで実用に供された。17世紀ヨーロッパからアジア、北アフリカまでその勢力まで広げたオスマン帝国は世界中の富をこの宮殿に集めた。
図書館
アフメト3世の図書館はかつて、トルコ語、アラビア語、ペルシア語などの蔵書があった。
謁見の間
謁見の間は大臣のスルタンへの謁見や、外国の大使や高官との改憲に使用された。
広間
ムラト3世の広間。大理石の泉は涼感を演出し、また盗聴を防止した。さらに、イスタンブールは歴史的に水不足に悩まされる都市であったので、水をふんだんに使うことでスルタンの絶大な富と権力を示した。
ハーレム
トプカプ宮殿の奥にはハーレムが存在した。スルタン以外の男性は年少の王子の他に医者であるとか、特別な理由のないものは入ることが許されなかった。現在のグルジア周辺出身の見目麗しい処女が、奴隷市場から買われ、常に300人ほどの女性が暮らしていた。その中の殆どの女性がスルタンの寵愛を巡る争いに明け暮れていたという。
アヤソフィア
ギリシャ語で聖なる知恵を意味するアヤソフィアはイスタンブールの象徴的存在。6世紀に建てられたこの巨大ドーム建築は後の建築に多大な影響をもたらした。オスマン帝国時代にはモスクとして利用され、その姿が今に伝わるが、元はビザンツ帝国によって建てられたキリスト教の教会であった。オスマン帝国はこの教会にミナレットを建ててモスクに転用した。
巨大なドームとペンデンティブ
建設当時世界最大のドーム建築。ドームはその形から外へ向かう力が働き、壁や柱を押し倒そうとするが、ドームと壁の間の三角形の部分、天使が描かれている箇所の奥に重量物が仕込まれていて、これが内側へ倒れる力となりドームによる外向きの力と釣り合っている。この三角形の部分のことをペンデンティブという。ドームとペンデンティブの力が釣り合うことにより地震の多いトルコで1500年間倒壊せずに今に姿を伝えている。
ひび割れ
ドームとペンデンティブの力が釣り合うように建設されているとはいえ、1500年間のうちにひび割れや歪みが目立つようになってきている。すぐに倒壊する心配は無いが常に注意を払うことが必要だという。
ミフラーブ
アヤソフィアの一角にあるイスラームの聖地メッカの方角を示す。
ミフラーブと聖母子像
ミフラーブからそのままドーム天井に目を向けると、聖母子像を見ることが出来る。オスマン帝国時代には漆喰で覆われていたため、アヤソフィアがキリスト教の教会であったことは知られていなかった。近代になって、アヤソフィアの修理の際に漆喰が剥がされた時、この聖母子像は再発見された。
キリスト教のモザイク画
アヤソフィアの壁という壁はかつてキリスト教のモザイク画でうめつくされていた。現在モスクとなっているこの建物は初期キリスト教建築の影響を受けたビザンティン様式の礎となった。
ブルーモスク
正式にはスルタン・アフメット・ジャーミーと呼ばれるイスラームの寺院。内部の繊細な紋様に包まれた空間は2万枚ものタイルを貼り合わせることで生み出されている。ミナレットは写真には4本が写るのみだが他に2本あり、イスタンブールで唯一ミナレットを6本持つ寺院として知られる。
スレイマニエ・モスク
オスマン帝国を代表する建築家ミマル・スィナンによって建設された、ビザンティン様式の影響を受けたドームを戴くオスマン建築の代表作。イスラームの高等教育機関であるマドラサや、隊商宿、病院などといった20もの施設を備えた複合施設としてスレイマン1世の時代に建設された。ミナレットの本数は、スレイマン1世がイスタンブールを治めた4人目のスルタンであったため、4本となったといわれる。
参考文献
TBS THE世界遺産 / TBS 世界遺産(2015〜) / 週刊世界遺産 No.23 イスタンブールの歴史地区 / UNESCO公式ホームページ
Photographer:Three-stick-long
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