概要
グランドキャニオンはアメリカ西部、ロッキー山脈から流れ出すコロラド川が約880万年をかけて生み出した全長446キロメートルの世界最大規模の峡谷である。その中でも世界遺産に登録されているグランドキャニオン国立公園は自然保護精神が確立する以前にセオドア・ルーズベルト大統領によって指定された15の国定公園のひとつで、ウッドロー・ウィルソン大統領の時代、1919年に国立公園に昇格した。グランドキャニオンの谷底までの深さはおよそ1600メートルで、そこには約20億年の歴史が刻まれている。それだけの高度差があるために複数の生物分布帯を擁し、博物学者C・ハート・メリアムは「高度の変化によってアメリカ大陸をメキシコからカナダまで横断する時に見られる同じ種類の動植物を見ることができる」と記している。実際に、北米大陸にある7つの生物分布帯のうち5つを公園内で見ることができる。もとはアナサジ族やハバスパイ族の暮らす土地であり、彼らはこの峡谷を母なる大地と呼ぶ。「グランドキャニオン」の名はスペインの探検隊によって名付けられた。この地を国定公園に指定したセオドア・ルーズベルトはこの峡谷について次のように述べている。「この壮大さ、荘厳、大いなる孤独と美を損なうようなことは、一切しないでほしい。グランドキャニオンをこのままにしておこう。」、「人間にできるのはこれを台無しにすることだけだ。」、と。基本情報
遺産種別/登録基準
自然遺産/(vii),(viii),(ix),(x)
登録遺産位置
アメリカ合衆国アリゾナ州
北緯36度6分 西経112度5分
北緯36度6分 西経112度5分
登録遺産面積
資産 493,270ha
登録年月
1979年
登録基準の具体的内容
(vii)
その卓越した自然美で広く知られており、と世界で最も視覚的に力強い風景の一つとして考えられるグランドキャニオンはその深い峡谷（寺院のようなビュート（残丘）、広く様々に入り組んだ地形）で有名である。公園の区域内の風光明媚ものとして、高原、平野、砂漠、森林、噴石丘、溶岩流、小川、滝、それにアメリカの著名な急流の一つが含まれている。
(viii)
公園の区域内には、地質学的に先カンブリア時代から新生代までの4つの地質時代すべてが記録されている。このうち先カンブリア時代と古生代の部分は峡谷の壁において特によく露出しており、豊かな化石群集を含んでいる。多数の洞窟が、更新世に及ぶ化石や動物の痕跡といった古生物学的記録を保護している。
(ix)
グランドキャニオンは標高ごとの自然環境を示す特筆すべき例である。コロラド川が谷を深く削るに連れて北米の7つの生物分布帯（植物相）のうち5つが含まれている。動植物の生息域は多くの地域で重なっており、峡谷中で見られる。
(x)
公園の多様な地形は同様に多様な生態系をもたらしている。5つの生物分布帯は非常に狭い領域内にある。グランドキャニオン国立公園は生物保護に関して重要な役割をもつ。衰退した生態系（北方林やデザート・リパリアンと呼ばれる北米の砂漠の植生群など）や、希少または絶滅に瀕している固有種の数少ない生息地となっている。
ギャラリー
マーサーポイント
グランドキャニオン観光の玄関口であるサウスリムのなかでも主要なビューポイント。数多くの観光客が立つグランドキャニオンの最上層はおよそ2億5千万年前の地層。それより新しい地層は風化・浸食によって消失しているため、グランドキャニオンで見られる地層は古生代と先カンブリア時代のもの。その中でも古生代シルル紀とオルドビス紀の地層もまた浸食により消失している。これはこの地が一旦隆起したあと再び海に沈んだことを物語っている。
マーサーポイントからの眺め
マーサーポイントからの眺めはグランドキャニオンを写した写真の中でもとくに有名。自然遺産として求められる真正性は広大な面積を保つことが必要であり、セオドア・ルーズベルト大統領によって保護されたグランドキャニオン国立公園はその条件を満たしている。
ヤバパイポイントからの眺め
マーサーポイント近傍にあるヤバパイポイント。絶壁が赤く見えるのは大気に含まれる酸素によって岩の成分が酸化したため。
デザートビューポイント
グランドキャニオンのイーストリムにある主要なビューポイントの一つ。目につく展望台は先住民の遺跡をモデルにデザインされた。
パウエルポイントからの眺め
パウエルポイントはウェストリムにあるビューポイントの一つ。ポイント名は大峡谷の最初の探検家ジョン・ウェスレー・パウエルに由来する。
ホピポイントへ連なるハイキングコース
パウエルポイントから一つ西にあるビューポイントであるホピポイントへ連なるハイキングコース。公園内にはハイカーのためのハイキングコースが整備されている。グランドキャニオン内に暮らす先住民ホピ族に由来する。ホピ族の神話では、グランドキャニオンは「母なる大地の裂け目（女陰）」という。ホピ族にとってこの峡谷は人類生誕の聖地であった。他の部族にとってもまた聖地であったことから、グランドキャニオン国立公園内のいくつかの展望台には周辺諸部族の名がつけられている。
コロラド川
グランドキャニオンを生み出したコロラド川。上流にグレンキャニオンダムができるまでこの川は1日平均50万トンもの土砂を押し流していた。
グランドキャニオンの動物たち
グランドキャニオンでは多種多様な動植物を見ることができ、その数は哺乳類が75種、爬虫類と両生類が50種、魚類が16種、鳥類が三百種、植物が千種。5つの生物分布帯を有し、サウスリムの一帯は松林帯。さらに標高が高くなると北方林帯がある。一方で標高が下がると低木林帯、半砂漠帯、湿地帯となり植物相の変化を見ることができる。シカ科の動物やリスなどは頻繁に目撃される。しかしグランドキャニオンとアメリカ南西部に特有の病気であるペストの危険があるため、触れ合うことは出来ない。
貝の化石
グランドキャニオンの一番上の地層は石灰岩。至る所で貝やサンゴなどの海洋生物の化石を見ることができる。これは2億5千万年前にはここが海の底であったことを示している。
グレンキャニオンダム
グランドキャニオンの25キロ上流に作られた発電目的のダム。ロッキー山脈から流れるコロラド川はここで勢いを削がれ、ダムはパウエル湖という人造湖を生み出した。下流を流れる水の量は激減し、川が崖を削る力は弱まった。峡谷はこれ以上深くならないといわれる。ハンプバックチャブなどの在来魚は絶滅の危機に瀕し、一方で外来種のストライプドバスが勢力を伸ばすなど、激減した水量と低下した水温は下流の生態系を大きく変える結果となった。このダムの存続には現在でも賛成派と反対派に意見が分かれている。
ホースシューベンド
パウエル湖の下流にある馬蹄状の地形。コロラド川はここからマーブルキャニオンを経てグランドキャニオンへ至る。
モニュメントバレー
ナバホ族居留地内にある景勝地の一つ。先住民の居留地内にあるため国立・国定公園ではないもののアメリカの原風景と謳われる。
アンテロープキャニオン
ナバホ族居留地内にある景勝地の一つで、アッパーアンテロープキャニオンとロウワーアンテロープキャニオンがある。スコールによって発生する鉄砲水によって削られた砂岩が螺旋状の美しい地形を生み出した。
ザイオン国立公園
旧約聖書に登場するシオンの丘に由来するザイオン国立公園。グランドキャニオンと同時期にこの地を流れるバージン川の浸食によって造られた。グランドキャニオン国立公園周辺にはこのほかにキャニオンランズ国立公園、ブライスキャニオン国立公園などが点在する。