概要
中国福建省の南西部の山岳地帯に位置する福建の土楼群は12～20世紀に造られた漢民族客家の伝統的な集合住宅である。客家とはもともとはよそ者を指す言葉で、4～5世紀に客家の祖先は戦乱から逃れるため黄河流域を捨て中国南部へと移住してきた。土楼は外敵から身を守る必要から生まれた砦である。世界遺産に登録されているのは福建省に点在する数千棟の土楼のうち永定県、南靖県、華安県の3県にのこる保存状態の良い46棟。独特の伝統建築や共同体の生活携帯に加え、周辺環境との調和も世界遺産登録の一因となっている。一つの建物に最大で800人もの人が共同生活を送った。一つの建物に暮らす人々はみな親族であり、かつては四世代の家族が共に暮すのが普通であったが、近年は中国で進行する急激な近代化と都市への人口集中、さらに一人っ子政策により土楼に住む人の数が大きく減ってきている。本記事では、世界遺産に登録された10地域のうち、洪坑土楼群景区、高北土楼群景区、田螺坑土楼群の3エリアを紹介する。基本情報
遺産種別/登録基準
文化遺産/(iii),(iv),(v)
登録遺産位置
中華人民共和国福建省
北緯25度1分 東経117度41分
北緯25度1分 東経117度41分
登録遺産面積
資産 152.65ha
緩衝地域 934.59ha
緩衝地域 934.59ha
登録年月
2008年
登録基準の具体的内容
(iii)
土楼は共同生活のための防御施設としての長年にわたる文化的伝統を示す顕著な例である。それは洗練された建築の伝統と、環境との調和と協力といった思想を反映したものである。
(iv)
土楼はその大きさの面において、伝統と機能性の上に成り立っており、幅広い地域で経済社会のさまざまな段階に社会の反応を反映させた顕著な例である。
(v)
すべての土楼、とりわけ世界遺産登録された福建土楼は、その造りは共同生活と防衛の必要性を反映した特徴的なものであり、また、環境と調和の取れた関係という点で人間の定住における優れた例である。
ギャラリー
田螺坑土楼群
田螺坑土楼群景区を代表する土楼群であり、中央の歩雲楼とその周りの和昌楼、振昌楼、瑞雲楼、文昌楼の5つの土楼が梅の花のように寄り添っている姿が有名。福建の土楼には大きく分けて3種類あり、最初期のものが五鳳楼、第二段階として外敵への守りを固め、すべての部屋が均等に割り振られたのが方楼、方楼が発展したのが円形の円楼である。円楼には死角がなく、外敵を監視するのに適していた。土楼の外側の土壁は防御のため180センチメートルを越える厚みがある。
福裕楼
洪坑土楼群景区に位置する、土楼の最も初期の様式である五鳳楼の代表的建築。客家の故郷である北方の住宅形式の名残が見られ、家長など一族内の序列により住む場所がはっきり区別されていた。福裕楼は五鳳楼ではあるが1880年に建てられた。
振成楼
洪坑土楼群景区を代表する大きな円楼。全部で222の部屋がある。土楼の窓は概ね3階以上にしかなく、これは防御の為である。明り取りとしては各部屋の中庭側の窓が役立った。建物内部は八卦思想から8等分されており、そのため振成楼は八卦楼とも呼ばれる。それぞれのブロックの間の壁は防火壁となっていて火災被害を抑える仕組みとなっている。また土楼には消火用として消火水槽が上階に設けられている。
承啓楼
高北土楼群景区に位置する承啓楼はその規模と美しさから土楼王とも称される。福建省最大の土楼で、敷地面積は5376平米、部屋数は400。通常、土楼には防衛上の観点から入口は1箇所しか無いが、承啓楼には隣の世澤楼、僑福楼それぞれの方角にも入口が設けられている。
承啓楼内部
外側の主楼の内側に更に三重の円楼が建てられている。その中心に祖堂が建てられている。
承啓楼の主楼
主楼には大抵の場合頭上に行灯があり、地階の回廊には排水口が備えられている。
世澤楼
高北土楼群景区に位置する方楼。門の左右に赤い紙に文字を書いた春聯を春節に備え飾る。土楼の名前を1文字ずつとり縁起の良い文句にして春節を迎えるのが習わし。
世澤楼内部
伝統的な建築であるが、現在では電気や水道が通っている。写真にあるように衛星放送のアンテナを備えた部屋もあり、土楼が現役の家であることを伺わせる。なお通常、土楼内部は立入禁止であるが、今回交渉により特別の許可を得て撮影した。
高北土楼群景区
中央の大きな円楼が承啓楼。その右側の円楼が僑福楼、左に見切れている方楼が世澤楼。これらの巨大な家々を、かつてアメリカの偵察衛星はミサイルの発射サイロの群れと誤認したという逸話が残っている。
裕昌楼
田螺坑土楼群景区に位置する古い土楼。各土楼の名称は、少なくとも1字は祖先が残した家訓から取られている。
祖堂
土楼の中心部に位置し、一族共通の先祖を祀る。祭祀や結婚式、会議などが開かれる公共の場でもあった。
共有廊下
各階にある木製板張りの共有廊下は走馬廊（ゾウマーラン）と呼ばれる。廊下のある建築様式は通廊式と呼ばれる。一方で二宜楼に代表される単元式の土楼には共有廊下がなく、他の家族との交流は1階でのみ可能となっている。
井戸
多くの場合、地階には共用井戸が設けられている。現在では水道水が引かれている。
春節
旧正月である春節は中国では新正月以上に重要な行事である。春節に爆竹を鳴らし魔を払うと同時に髪を迎える。土楼の門が開けられる開門の儀式では開門と同時に一族の男性が土楼内部に駆け出し、風水の示す縁起の良い方角の地に最初に線香を立てたものがその年の福男になる。