概要
フエはベトナム最後の王朝として、19世紀初頭にベトナム全土を統一したグエン（阮）朝の首都として栄えた古都である。グエン朝はベトナムが中国と同等の文明国であると諸外国に誇示するため、フエには中国の故宮を模した王宮が建てられた。10世紀に中国から独立したベトナムは、その後も中国の文化に影響を受けつづけたが、フエではベトナム独自の文化が花開いた。グエン朝の時代にベトナムはフランスの保護国となったが、その後もかわらずフエは約150年間にわたり、傀儡王朝ではあったもののグエン朝の都としてありつづけた。1960年代にアメリカの介入で泥沼化し、10年以上続いたベトナム戦争ではフエは最大の激戦地の一つとなり、王宮は40以上の建物を失った。ベトナム戦争を経て遺されたフエの王宮とグエン朝歴代皇帝の陵墓が、華やかな王朝文化の象徴として世界遺産に登録されている。基本情報
遺産種別/登録基準
文化遺産/(iv)
登録遺産位置
ベトナム社会主義共和国トゥアティエン・フエ省
北緯16度28分 東経107度34分
北緯16度28分 東経107度34分
登録遺産面積
資産 315ha
緩衝地域 72ha
緩衝地域 72ha
登録年月
1993年
登録基準の具体的内容
(iv)
フエはアジア世界の封建的な都の顕著な例である。
ギャラリー
王宮
フエの中心を流れるフオン川のほとりに王宮がある。この午門は王宮の入り口であり、中央口は皇帝専用であった。午門の上に木造二階建の五鳳楼が建てられたのは第二代ミンマン（明命）帝の時代。皇帝や后はここから門前の広場で行われる儀式を眺めた。
太和殿
王宮の建物の多くは清朝の故宮を模して、実物の3/4の大きさで造られた。この太和殿は玉座が置かれ、皇帝が政務を執り、また外交使節の謁見など様々な宮廷儀式の舞台となった。太和殿に立ち並ぶ80本物朱塗りの柱には皇帝のシンボルとされた龍が描かれている。ゴシックの大聖堂にある薔薇窓を思わせる窓や柱は、第十二代皇帝カイディン（啓定）帝によって付け加えられた。
世廟
前殿と正殿が一つにつながるベトナム独特の建築様式で建てられた世廟。歴代皇帝とその后の位牌が祀られている。この内真新しい3つの位牌が祀る皇帝はフランス植民地時代、フランスの支配に抵抗し、流刑地で生涯の大半を終えた。元はここに無く、現在の社会主義国になってからここに祀られるようになった。
顕臨閣
世廟の前閣にあたる建物。建物の前には歴代皇帝を象徴する9つの青銅製の鼎が置かれている。
バロック宮殿
太和殿の奥に従来式の宮殿があったが、フランスへの憧れを見せたカイディン帝は更にバロック宮殿を建設した。写真奥に見える金の龍の場所に、そのバロック宮殿は建てられていた。現在では、宮殿の前にあったフランス式庭園だけが、ここに西洋式宮殿があったことを今に伝えている。
宮殿跡
従来式の宮殿やバロック宮殿があった場所には、今はフランス式庭園以外には一面の草むらが広がる。フエの王宮はベトナム戦争により破壊された。
破壊の跡
南北ベトナム軍のどちらも譲らず市街地の大半が瓦礫と化したベトナム戦争で、フエの王宮は40以上の建物を失った。王宮では2015年現在、ユネスコの援助で修復・復原作業が続けられているが、その広大な面積ゆえ未だ破壊されたままの箇所が多く残されている。
カイディン帝陵
ヴェルサイユ宮殿を模したこのバロック風建築は、カイディン帝の陵墓。建設に位は他の陵墓の建設よりも長い12年という歳月をかけて完成した。
モザイク装飾
壁や柱を彩るモザイク装飾はヨーロッパの影響を強く受けながら、東洋の文化を組み込んでいる。モザイク画に使われたのはフランス、中国、日本など外国から輸入した陶磁器やガラスを砕いたもの。茶色の透明なガラスは日本のビール瓶。
金色の玉座
皇帝の指示の下、この金色の像の下にカイディン帝の亡骸は埋められている。
トゥドゥック帝陵
第二代トゥドゥック（嗣徳）帝の陵墓。残念ながら撮影時には水が抜かれていたが、蓮の時期には満開の蓮で彩られる蓮池に中国風の釣殿が建てられている。フランスに対抗し続けたトゥドゥック帝の死後、ベトナムはフランスの植民地となり、以後グエン朝はフランスの傀儡王朝としての道を歩んだ。グエン朝は、第二次世界大戦での日本の敗戦にともなって最後の皇帝バオダイ（保大）帝が退位し、150年の歴史を終えた。
離宮
豪奢なこの陵墓を、トゥドゥック帝は離宮としても用いた。この奥には、皇帝の位牌を祀る和謙殿が建てられている。
和謙殿
和謙殿内部には、皇帝の位牌が祀られている他、ガラス絵のコレクションが飾られている。それらは、フエの風景を詠んだ詩に、中国の絵師が画をつけたもの。トゥドゥック帝の時代は王朝文化の最盛期でもあった。