概要
ハルシュタット-ダッハシュタイン・ザルツカンマーグートの文化的景観は、オーストリアのザルツカンマーグート地方にある、世界一美しい湖畔の町と呼ばれるハルシュタットと、この町や湖を形成するダッハシュタイン山塊からなる、人間の活動と自然の相互作用によって生み出された景観である。ハルシュタット周辺は、古代青銅器時代から岩塩の採掘が盛んな地域であり、ヨーロッパ全域に大きな影響を与えたと考えられるハルシュタット文化を形成した。紀元前4世紀に古代人がこの地を去った後、12世紀に至るまで岩塩が採掘された形跡は存在してないが、ハプスブルク家によってこの地が支配された中世以降には岩塩を求めて湖のほとりの狭い範囲に町が形成され、湖と町と背後のダッハシュタイン連峰からなる風光明媚な景観が生み出された。ハプスブルク家は、この地で採掘される塩によって巨額の富を手にしヨーロッパ屈指の大帝国へと成長した。町の経済を支えた製塩所は20世紀半ばに創業を停止したが、ハルシュタット塩抗は2014年現在でも操業を続けており、世界最古の岩塩抗として知られる。基本情報
遺産種別/登録基準
文化遺産/(iii),(iv)
登録遺産位置
オーストリア共和国オーバーエスタライヒ州
北緯47度33分 東経13度38分
北緯47度33分 東経13度38分
登録遺産面積
資産 28,446ha
緩衝地域 20,014ha
緩衝地域 20,014ha
登録年月
1997年
登録基準の具体的内容
(iii)
ザルツカンマーグート地方には3000年以上に渡って人類が居住している。そこでは人と動物にとって重要な天然資源である塩の採掘と精製が行われている。岩塩による一連の文化的伝統は、繁栄と、大部分が自然のままの風景の中で人類の集約的な活動に深く関連した結果として独特の景観をもたらした。
(iv)
ザルツカンマーグート地方のハルシュタット-ダッハシュタイン高山地域は、非常に美しい自然風景と、科学的関心をかきたてる人類の基礎的な経済活動の痕跡を残す顕著な例である。この地域の文化的景観は2500年間続く発展を誇っている。当初からその歴史は塩産出の経済史と主に結びついている。岩塩坑は建築と芸術だけでなく常に生活のすべての側面に関わってきた。ハルシュタットでの塩生産は中期青銅器時代にまで遡ることが出来る。
ギャラリー
世界一美しい湖畔の町
ハルシュタットは世界一美しい湖畔の町として知られる。また、「ザルツカンマーグートの真珠」と呼ばれる。ザルツカンマーグートの「ザルツ」は塩を意味する言葉であり、「ザルツカンマーグート」とは、「塩の宝庫」を意味する。この地が岩塩によって栄えたことを示している。
マルクト広場
マルクト広場は市民の憩いの場。現在は店のほかホテルが立ち並び、世界中から訪れた多くの観光客で賑わう。
ガストホーフ
現在、ヨーロッパ屈指の観光地として知られるハルシュタットでは、多くの家がガストホーフと呼ばれる民宿を経営している。
石造りの家々
一見木造に見えるハルシュタットの家々だが、実は石造り。1750年の大火で町の多くが焼けた後、石造りに建て替えられた。石造りの家の外側と内側に、木造に見えるように木の板を貼ったと言われる。
町並みとハルシュタット湖
19世紀末まで、ハルシュタットに通じる道はなく、人々は移動や物資の運搬に舟を用いていた。現在では、近隣の都市であるザルツブルクからバスを乗り継いで訪れることが出来る。
ダッハシュタイン連峰
ハルシュタットの景観を生み出しているダッハシュタイン連峰。ダッハシュタイン連峰はアルプス山脈の東端に位置し、険しい山々の景観は氷河によって形作られた。ここに岩塩の鉱脈があり、古代人が鉱山開発をしていた痕跡も見つかっている。
ヨハン・ゲオルク・ラムザウアー
古代人の痕跡を見つけたのは、鉱山開発を指揮していたヨハン・ゲオルク・ラムザウアー。この地で生活していた古代人はケルト人だと考えられている。また、ハルシュタットの「ハル」もまた、ケルト語で塩を意味する言葉。
ハルシュタット塩抗
ダッハシュタインの山々のひとつであるザルツベルク山はハルシュタットの裏手にあり、写真はこの山上に位置するクリスティーナという名のハルシュタット塩抗。ザルツベルク山上にある岩塩抗は現在でも操業しており、クリスティーナには観光で内部を訪れることも出来る。また、この地から世界最古の紀元前6世紀頃の岩塩抗跡が見つかっている。
滝
ザルツベルク山から流れ落ちた水は滝となり、山の麓に土砂を堆積させた。その狭い土地に広がっているのがハルシュタットの町である。
ハルシュタット遠景
狭い土地に町が広がったおかげで、湖と町と山の美しい風景がこの地に築かれた。
ハルシュタット湖
ザルツベルク山上から見るハルシュタットの町とハルシュタット湖。狭い土地に軒を重ねるように家々が密集している。
ライナンケ
ハルシュタット湖の水温は、近くに氷河があるお陰で低く保たれている。そのため、この地の特産の一つであるライナンケという淡水魚は成長が遅く、身が締まり美味。同じくハルシュタットの特産である塩で味付けをして食べるのが一般的。数が減ってしまわないよう、ハルシュタットには漁師も魚屋も一軒ずつしかないという。
カトリック教会
カトリック教会は、岩塩抗で働く鉱夫やその家族の心の癒やしのために建てられた。土地が乏しいため、この教会はハルシュタット湖にそそり立つ岩の上に築かれている。
墓地
カトリック教会裏の墓地。この地方では、土葬の習慣があったが土地のないハルシュタットでは、墓地不足のため、世界に類を見ない埋葬方法を編み出した。
納骨堂
埋葬後、10年から20年経つと墓を掘り返し、天日干しを行い、彩色してからこの納骨堂に納められた。12世紀に建てられたこの納骨堂には1200個の頭蓋骨が納められている。近年は火葬が増えたため、この埋葬方法はハルシュタットの一般的な埋葬方法ではなくなったが、現在でもこの納骨堂に収めるための土葬は行われている。