概要
モン・サン・ミシェルはノルマンディー地方アヴランシュの司教オーベールによって築かれた聖地である。オーベールが聖堂の建築に取り掛かってからおよそ800年の時をかけて現在の姿となったモン・サン・ミシェルはその名の通り聖ミカエルを讃える寺院として、かつてはローマやエルサレムと並ぶさん大巡礼地の一つであった。現在はヨーロッパ大陸と橋で結ばれているが、19世紀の半ばまで橋はなく満潮時には文字通り孤島となっていた。この周辺の海はヨーロッパでも特に干満の差が大きく潮の流れが早いため、巡礼の旅は命の危険と隣り合わせであった。沖合にも広い砂州に囲まれたモン・サン・ミシェルは、修道院としてだけでなく、歴史の荒波の中で軍事要塞や牢獄としても転用されその度に島から修道士が姿を消していたが、1966年以降は修道士が戻り今ではミサも執り行われている。その比類なき景観は、フランスを代表する文豪にも愛され、ヴィクトール・ユゴーはピラミッドに匹敵すると称え、モーパッサンは「広大な海辺が赤色をしていた。ただ一人、モン・サン・ミシェルの僧院のみが幻想の館のように彼方の地の果てに伸び上がり、また夢の宮殿のように驚く姿をしていた。」と書き残している。基本情報
遺産種別/登録基準
文化遺産/(i),(iii),(iv)
登録遺産位置
フランス共和国ノルマンディー地方
北緯48度38分 西経1度30分
北緯48度38分 西経1度30分
登録遺産面積
資産 6,560ha
緩衝地域 191,858 ha
緩衝地域 191,858 ha
登録年月
1979年
登録基準の具体的内容
(i)
天然造形と建造物との独特な組み合わせは、モン・サン・ミシェルに固有の造形美をもたらしている。
(iii)
小さな島の限られた範囲に寺院と門前町が立ち並んでいるために、モン・サン・ミシェルは他に類を見ない調和が形作られている。
(iv)
モン・サン・ミシェルは、中世キリスト教文明の最も重要な場所の1つである。
ギャラリー
モン・サン・ミシェル
モン・サン・ミシェルは8世紀、司教オーベールによって築かれた。伝説によると、大天使聖ミカエルがオーベールの夢に現れ「あの岩山に我が名を讃える聖堂を建てよ」と言った。オーベールは当初そのお告げを信じなかったが、3度目にミカエルは光の迸る指先でオーベールの頭を突いたところオーベールの頭には穴が空き、そこでようやくお告げを信じ聖堂の建築に取り掛かったという。モン・サン・ミシェル(Mont-Saint-Michel)はそのまま聖ミカエル(Saint-Michel)の山(Mont:フランス語で山の意)。
王の門
モン・サン・ミシェルの入り口にある城門は王の門という。モン・サン・ミシェルが軍事要塞であった時代に王が派遣した衛兵が詰めていたためこの名前がついた。
グランド・リュ
大通りという名がつく参道は、その名とは裏腹に路地のような狭い道が修道院まで続いている。この参道の両端に、今では土産屋、レストラン、ホテルが立ち並んでいる。
尖塔と聖ミカエル像
聖堂の尖塔にある聖ミカエル像は彫刻家フレミエによって作成され、1897年に設置された。
オルセー美術館のミカエル像
エマニュエル・フレミエによるミカエル像。
聖堂
西のテラスから眺める聖堂の正面。
身廊
聖堂内部は70メートルの奥行きがある。中世の頃、数多くの巡礼者を迎え入れるためにはこの広さが必要だったと言われる。身廊はノルマンディー地方のロマネスク様式（ノルマン様式建築）。
内陣
祭壇のある内陣はロマネスク様式の身廊とは打って変わって典型的なゴシック様式。聖堂は不安定な斜面に建つが故に崩壊を繰り替えし、16世紀にようやく完成した。石を積み上げた重厚な壁と比較的小さな窓に包まれたロマネスク様式とは異なり、ゴシック様式では窓ガラスの大きな薄い壁を飛梁で支える構造となっている。16世紀に完成した内陣は後期フランスゴシックの傑作とされる。
翼廊
翼廊もまたゴシック様式であるが、内陣とは異なりゴシックの初期の特徴を示している。
聖堂の地下
空間を埋め尽くす柱で上に建つ聖堂を支えている。
中庭
聖堂の北に築かれた修道院の居住空間はラ・メルヴェイユという。ラ・メルヴェイユは驚嘆という意味。その3階部分には回廊に囲まれた中庭がある。ベネディクト修道会から選びぬかれた修道士たちがここで厳格な規律に従い祈りの日々を過ごしていた。
回廊
回廊の柱は内側と外側の石をわずかにずらし、ゆったりとした歩調に合わせた間隔に配置されている。
食堂
ラ・メルヴェイユの3階、中庭の奥にはラ・メルヴェイユの中でも最も美しいとされる食堂がある。板張りの天井はヴァイキング文化の影響を受けた船底の形をしている。59の小窓から差し込む光が食堂を穏やかな光に満たしている。
説教壇
食堂に設けられた説教壇。ここから読み上げられた聖人伝がこの部屋を満たしていた。
騎士の間
ラ・メルヴェイユの2階にある修道士が写本の制作に従事した部屋。1469年に聖ミカエル騎士団が結成されたあと、この名前で呼ばれるようになった。
貴賓室
騎士の間の隣にある貴賓室は、貴族階級の客を迎える場所だったとされている。
大砲
14世紀に英仏100年戦争が始まると、モン・サン・ミシェルの修道院は軍事的に極めて重要な場所となり要塞となった。
城壁
モン・サン・ミシェルには今でも軍事要塞として使われていた頃の城壁等が残っている。
人間滑車
18世紀にフランス革命が起こると、モン・サン・ミシェルは牢獄となった。多いときには1万5千人もの囚人が強制労働をさせられたという。この大きな車輪の中には3人の囚人が入れられ、ハムスターの滑車の要領でこれを回転させ、重い荷物を麓から引き上げられた。
干潟
この干潟も世界遺産登録されている。大潮では干満の差が最大で15メートルにも達する。2009年まで、モン・サン・ミシェルと大陸をつなぐ盛土による堤防道路が整備されていた。この道路によって潮の流れが遮られ100年で3メートルもの砂が堆積した。2014年には新しい橋が開通し、2015年に堤防道路が完全に撤去された。また、堆積した砂を沖合へ押し流すためのダムも整備されたので、現在は砂の堆積は低減されている。
ラ・メール・プラールのオムレツ
もとは19世紀末に巡礼者のために生み出されたモン・サン・ミシェルのオムレツ。巡礼者がいつ到着しても気軽に食べられるように簡単にかつ早く調理できるものを出したとされる。現在では観光客向けの高級料理となっている。味はオムレツというよりも関西風の卵焼きに近い。