概要
ヴュルツブルク司教館は、マイン川の岸辺に広がるヴュルツブルクの領主でもあり、この地の信者たちを束ねる聖職者でもあったローマカトリック教会の司教、ヨハン・フィリップ・フランツによって計画されたバロック建築の傑作。司教館を設計した建築家バルタザール・ノイマンは、元は鍛冶職人であったが司教が自らの理想の宮殿を作り上げるために建築家として英才教育を施された。イタリアやフランスに派遣され最先端の建築芸術を学んだノイマンは、育ての親である司教の死とその後の不遇を経験しながらも、最終的にはヨーロッパでもっとも美しいと言われた司教館を完成させた。玄関ホールを入った先にある階段の間は、壁以外に支えがない大きな天井が特徴のノイマンが設計した最も素晴らしい空間の一つであるが、支柱がないゆえに強度が設計ミスだと非難されながらも、実際には第二次大戦の爆撃にも耐えた。建物の内部は一切の撮影が禁止されているため、このページで階段の間を始めとする内部の紹介はできないが、外観写真をもとに当遺産の紹介を行う。基本情報
遺産種別/登録基準
文化遺産/(i),(iv)
登録遺産位置
ドイツ連邦共和国バイエルン州
北緯49度47分 東経9度56分
北緯49度47分 東経9度56分
登録遺産面積
資産 14.77ha
緩衝地域 25.0685ha
緩衝地域 25.0685ha
登録年月
1981年
登録基準の具体的内容
(i)
ヴュルツブルク司教館はバロック宮殿の均質さと非凡さを兼ね揃えている。司教館は、その建築と装飾の様式によって表現されたヨーロッパのバロック様式の芸術の優れた作品である。野心的計画、創作的精神、そして建築様式の国際的なバックグラウンドの結果として、司教館は独特の芸術性を示している。おそらく、同時期の建造物のなかでも最も優れたものである。
(iv)
司教館はヨーロッパ文化を示すものである。その構造は、18世紀のフランス（主にパリ）、イタリア（主にヴェネツィア）、オーストリア（主にウィーン）、そしてドイツの、もっとも重要なヨーロッパの建築家、彫刻家、画家が築き上げた成果のもとに成り立っている。
ギャラリー
全景
川向のマリエンベルク城から望む司教館。第二次大戦の爆撃により、多くの部屋が破壊されたが、宮廷建築の大御所ヒルデブラントに設計ミスとまで非難された階段の間の天井は焼け落ちることがなく、現在までオリジナルの状態を保っている。屋根を支えていた石材として用いられた凝灰岩は軽く、火にも強い特性を備えていたためとされる。階段の間の天井画はヴェネツィアで最大の画家であったジョヴァンニ・バティスタ・ティエポロの作。司教館の室内装飾はヨーロッパ中の才能が結集し成し遂げられた。
正面
司教館の正面は、司教ヨハン・フィリップ・フランツの死去に伴い後継者の司教に招聘されたルーカス・フォン・ヒルデブラントの作。ヒルデブラントはウィーンを中心に活躍した当時もっとも人気のあった宮廷建築家であり、一時サルバドール・ノイマンに代わって建設を担当した。正面2階には白の間という白漆喰の装飾に包まれた部屋があり、室内には日本製の壺などが置かれた。この部屋は、司教館の主宴会場となった皇帝の間の控室となった。白の間の北隣には建設当時物議を醸した階段の間がある。
名誉の中庭
司教館正面のコの字型に囲まれた広場は名誉の中庭と呼ばれる。ここに19世紀前半、フランケンの泉と呼ばれる、この噴水彫刻が置かれた。
西面
司教館の西面はちょうど裏手にあたる。建物中央1階には庭園の間と呼ばれる部屋があり、庭園を見渡す事ができる。2階、庭園の間の上には皇帝の間がある。西面の北側、写真手前には緑の間と呼ばれる領主司教のための部屋があり、この部屋は特徴的なモザイクがの描かれている床と銀を下地とした特殊な塗装による緑の壁が印象的。西面の南側、写真奥には鏡の間と呼ばれるヴェネツィア製の鏡で装飾された部屋がある。鏡の間の鏡には、ガラスの裏側から絵を描く特殊な技術が用いられている。鏡の間は第二次大戦で爆撃により破壊されたが、残された写真と鏡の破片を元に1980年代に復元された。
南面
司教館の南面。南面の西側、写真の左側に礼拝堂がある。この礼拝堂は、亡き司教、ヨハン・フィリップ・フランツを想ってノイマンが作り上げた。
庭園
皇帝庭園、ホーフ庭園とも呼ばれるこの庭園は、司教館の東側と南側に設けられている。その広さは宮殿の敷地のおよそ3倍。数多くの彫像が設置されている。
礼拝堂
宮廷礼拝堂、ホーフ教会とも呼ばれる礼拝堂はドイツ宗教建築の最高傑作とも言われる。ヨハン・フィリップ・フランツの死後、後継者であった司教はノイマンに代わり当時最も人気のあった建築家ルーカス・フォン・ヒルデブラントに司教館の建設を託したが、この礼拝堂の完成度の高さから、再びノイマンが司教館の建設を指揮することになった。礼拝堂の内装の一部はヒルデブラントも担当している。
マリエンベルク城
中世以来、ヴュルツブルクは堅固な壁に囲まれた城塞都市であった。司教の居城は市街地の川向うの小高い丘に建つこのマリエンベルク城であった。ヨハン・フィリップ・フランツが司教の館を市街地の中へ移す計画に着手した。