姫路城　Himeji-jo

概要

姫路城は、法隆寺地域の仏教建造物群、屋久島、白神山地とともに日本の世界遺産第一号であるとともに、現存天守をもつ日本の城でも美しさやその規模など多くの点で最高傑作とされる。白鷺城とも呼ばれるこの城は現存する木造建造物の中でも特に優れていると評価されている。石造建造物に比べ壊れやすい木造建造物ながら歴代城主や明治、昭和、平成の度重なる修理により、また大きな戦禍に見舞われることがなかったため当初の保存状態を維持していることが大いに評価されている。元は豊臣秀吉が築いた城であるが、現在残されている城郭建築の多くは徳川家康の娘婿である池田輝政によって西国統治のために築かれたもの。昭和の大修理から45年経った平成21(2009)年から約5年にわたって平成の大修理が行われ、天守は竣工当時の姿を取り戻した。

基本情報

遺産種別/登録基準

文化遺産/建造物群、城
(i),(iv)

登録遺産位置

兵庫県姫路市
北緯34度50分　東経134度41分

登録遺産面積

資産　107ha
緩衝地域　143ha

登録年月

1993年12月

登録基準の具体的内容

(i)

大天守に代表される設計技術の高さと、白漆喰などを施した装飾美の素晴らしさから、木造建造物の最高傑作とされる点が、人類の創造的資質を示す傑作であるということ。

(iv)

日本の木造城郭建築、という重要な様式の建築物の代表であり、その特徴がよく保存されている建造物であること。

ギャラリー

姫路城天守。大天守と三つの小天守はいずれも国宝である。5重6階地下1階の望楼型の大天守は内部見学が可能である。小天守も1階部分が見学可能であり、これらの天守の内部には内部には昭和の大修理の際に発見されたものなど多くの資料が展示されている。太平洋戦争の夜間の姫路大空襲で城下は焦土と化したが翌朝、何事もなかったかのように聳え立つ姫路城を見て城下の人は涙したという。

平成の大修理

平成の大修理の正式名称は「国宝姫路城大天守保存修理工事」である。平成27年3月まで延べ1万5千人の職人によって約5年に渡って行われたこの平成の大修理によって大天守は竣工当時の輝きを取り戻した。

伏見城から移築されたとされる。菱の門は姫路城の防御という点で重要な門であり、ここで挟み撃ちか出来るようになっている。奥の壁にある狭間（さま）から火縄銃で侵入者を銃撃すると同時に門そのものや、写真左の壁からも同様に銃撃が可能となっている。

L字型の城壁

菱の門の正面にあるL字型の城壁。ひとつ上の写真の左側に写っている城壁。菱の門とそこから伸びる城壁のほか、この城壁があることで、侵入者が門に近づく前に集中して撃つことが出来るようになっている。菱の門に直進できない工夫でもあり、これはヨーロッパなど諸外国の城郭にも似たような工夫が存在する。身近な例としては世界遺産「水原の華城（スウォンのファソン）/大韓民国」がある。

菱の門を入るとすぐに四角い水掘りがある。この水掘りは三国堀または三国豪と呼ばれ、道を二手にわけ、敵の分散や敵を惑わすことを目的として作られている。実際にはこちらから左にいくよりも右に行くほうが天守に近いが、右に行った場合、るノ門が埋門（うずみもん）となっているため、侵入者はここを通過できない。

一見すると、天守にはこの門から進むのが早いように見えるが実際には上記の通りるノ門を通った方が近道。

いノ門を抜けると二の丸に入り、つづいてこの門が現れる。

い、ろノ門を抜けると続いて現れる門。天守のそびえる姫山に登る要所。

やはりい、ろ、はノ門の後に現れる門。この門は見た目は単なる門に過ぎないが内部がトンネル状になっており、侵入者が中を通り抜けようとすると上から槍で攻撃できるようになっている。

十字架に見える鬼瓦

にノ門の唐破風の鬼瓦にはこのように十字架に見える十字が焼き付けられている。この十字は、はノ門を抜けて左に見える空き地から右に立つ建物（にノ門）に見られる。

い、ろ、は、にノ門と進むと次に現れる門であるがほかの4つ門よりも極端に狭い。鉄張りの門であるため、敵は埋門を回避してこの経路を使ってもこちらで足止めされる。

ほノ門を抜けると右側に立つ。姫路城の壁の多くは白漆喰で塗りこんであるがこの壁だけは粘土に豆砂利を混ぜ、米のとぎ汁で固めたものとされる。秀吉時代の名残とされるが、他にも高い壁が必要だったなどのようなさまざまな説がある。油壁を中心に、右下に見える門がほノ門、左に見えるのが水一門。姫路城には水門は他に水五門まである。

天守閣の北側に連なる多門長屋で、中には井戸もあり、塩や米を蓄えて篭城に備えてあった。裏側に石垣に沿って美しく弧を描いた建物で、他の城郭には見られないものである。

い、ろ、は、に、ほノ門に続いて現れる門。

城内の門の中でも特別古風な門で、置塩城から移築したという伝承がある。とノ門はほかにとノ四門まであり、とノ三門は現存しない。とノ門はいずれもこのとノ一門を抜けると見ることが出来る。

へノ門のあと、とノ一門ではなくこの門を通過すると姫路城本丸に到達する。

前出の水五門。見学ルートには水五門の前に水三、四門もみることができる。

大天守の石落とし

城内の櫓などには石落としが多く見られる。天守の飾りのひとつである唐破風の下にも大石落としが設けられている。大石落としを唐破風と格子窓でカモフラージュしている。大天守左の角にあるのが石落としである。大石落としも石落としもどちらもふたがついており、必要なときにふたを開け、鉄砲を撃ったり、石を落としたりできるようになっている。

姫路城大天守を支える二本の大黒柱のひとつ。元は樅の一本材であったが、根元が腐っていたため昭和の大修理の際、檜材で根継ぎをし、補強された。

地階にある流し。天守内部に流しがあるのは非常に珍しい例。簀子の下は傾斜した板があり、水は流しから内庭に排出される。篭城のための備えのひとつ。

地階は流しのほか、6基の便所がある。

地階の様子

基本的には地階はなんらかの倉庫として利用されていた。地階であるためか、他の階に比べ、暗い。

天守の壁にはいたるところにこのような金属製の棒が備え付けられている。これは、ここに食料や弾薬などを入れた袋をかけるためのもの。

なお、天守1、2階はこのように資料の展示室となっている。3階より上では、二つの大黒柱など、天守の構造そのものに関しての説明板が設置されているのみ。

戦にそなえて槍が容易されており、各階にこの様に掛けられている。

槍と同様に、鉄砲もこのように用意されている。

大天守の天井

廊下。槍や鉄砲はこのように廊下の壁に装備されている。また天守は6階以外は通常、兵庫として使われたので、天井は上階床の板材が見えている。

姫路城大天守を支える二本の大黒柱のひとつ。3階から上部では栂材（とがざい）、下部は樅材で継がれていたが、芯が腐っていたため昭和の大修理で檜材2本で作られた。元と同じように3階で継がれ、鉄輪で補強されている。写真は3階で、継ぎ目はこのようになっている。

3階から4階にかけての大柱

3階から4階にいたるまでの階段は他の階段よりも長く、途中でこのような踊り場が設けられている。ちなみに姫路城の階段は他の天守に比べあまり急ではない。

本来は高い位置にある窓が使えるようにするために設けられたもの。しかし戦になった場合はこの上に上ってここから外に向かって鉄砲を撃てるようになっている。下に出来た空間は倉庫として使ったり、隠れたりするのに使用されたと考えられている。

しゃちほこ

大きいもので1.8mもある。しゃちほこは火に強く、火事を防ぐとされた。

天守内部にはこのような飾りを随所で見ることが出来る。これは釘を隠すための飾りであるが、5階までは木製であるのに対し、最上階のみ金属製となっている。

最上階である6階には刑部神社があるのみだが、昔は畳が敷かれていた。居所としての性格を持つため、特別に天井を設けている。

大天守の構造

姫路城小天守は2階より上には上がれない。1階にはこのように展示物が置かれている。これは昭和の大修理の際に作られた姫路城の骨組みの模型。小天守ではその他、当時の姫路城下を再現した模型や、昭和の大修理の際に出てきた草履などが展示されている。

棟門である。ちなみにいノ門なども棟門。

りノ門（写真なし）の先にあるのがこの腹切丸。しかし実際にここで切腹が行われたという事実はないとされる。生い茂る木立による薄暗い雰囲気とあたかも石打棚が検死役人の座、下の板場が切腹場、手前にある井戸の水で首を洗うように見えるため、このように呼ばれる。

皿が一枚なくなったといって殺されたお菊が投げられた井戸。夜になると「一枚、二枚」と皿の数を数える声が聞こえるという噂がある。実際にはそのような話はなかったとされる。

いノ門からも接続されている。姫路城の門は天守に近づくにつれて幅が狭くなっているが、これは敵の勢いをそぐことが目的とされる。

これは先述の埋門。敵がこちらから侵入しようとした場合、石を門の中に詰め込んで通れなくする。いノ門から進入しようとした場合は、いノ門で敵兵と味方兵が戦っている最中に、るノ門裏に待機する兵士が敵兵の後ろに回りこんで敵を挟み撃ちにした。そのためにるノ門の裏には広い空き地がある。

現存する建物は渡櫓、長局（ながつぼね）、北端に化粧櫓が残るのみ。落書きが多いため、2010年4月より百間廊下にならぶ28部屋のうち北側3部屋を残して立ち入り禁止となっている。

天守もそうだが、基本的に窓ガラスというものは存在しない。そこで、入り込んだ雨水はここから外へ流す仕組みとなっている。格子窓は、様々な角度からの攻撃を防ぐために方形でなく八角形となっている。更に、防御力を高めるために木材を金属板で覆い、更に耐火性のある白漆喰で上塗りされている。

西の丸の石落とし

西の丸にも天守同様石落としが用意されている。取っ手をもち、ふたをあけて使用する。

長局には侍女らの部屋があり、女性しかいなかったので建物内部でもこのような頑丈な扉が用意されている。

侍女らの部屋

先述の通り、落書きが多いので2012年現在多くの部屋が見学不可能となっている。

新しく復元された箇所があり、そこだけ木が新しく、異色の雰囲気を呈している。建造当初の様子をうかがうことが出来る。

西の丸北端の化粧櫓。原則として立ち入り禁止だが、毎年数度内部に入ることが出来る。普段はこのように千姫人形が貝並べをしているセットがおかれている。

天守の基礎

姫路城大天守の本来の基礎。現在は三の丸に展示されている。昭和の大修理の際、大天守の重さはこの基礎が耐えうる重量をはるかに超えていたことが判明した。そのため安全を期して現在の大天守の基礎はコンクリートで造られている。山の斜面に建築されていたことと合わせ、江戸年間でも天守の傾きが見られた。そのため江戸年間でも20年毎に修理が行われていた。

中村大佐の石碑

中村大佐の鶴の一声により姫路城の天守群は保存されることとなった。

参考文献

世界遺産検定公式基礎ガイド2009 / 世界遺産シリーズ　日本の世界遺産　―西日本編― / 世界遺産ふしぎ探検大図鑑 / 姫路城パンフレット / 姫路城内の説明板 / 姫路城永遠の天守閣 / 世界の遺産　姫路城 / 歴史秘話ヒストリア「姫路城　美と強運の400年物語～巨大迷宮の秘密を探る旅～」 / UNESCO公式ホームページ / 日本経済新聞 / 週刊世界遺産　No.31　屋久島と日本西部の遺産

Joint photographer:　匿名希望