銀山柵内

石見を世界的な銀山としたのは、時代の先端を行く技術であった。鉱石から純度の高い銀を取り出す灰吹法で、朝鮮半島から神谷寿亭が導入した。銀を求めてポルトガル人が日本に進出し、銀と交換にポルトガル人がもたらした鉄砲と火薬が天下統一への歩みを進めた。17世紀、天下を統一した徳川家康は直ちに石見銀山を幕府の直轄領とし、柵で囲った。写真は銀山の番所の一つである本谷口番所跡である。旗の奥の平坦地に設けられていたと推定される。門や番所の構造は不明であるが、絵図には間口が3間、奥行き2間ほどの平屋の建物が描かれている。

灰吹法の燃料として木材が用いられる。鉱山では一般に製錬や精錬で多量の木材が用いられるが、石見銀山は鉱山としては珍しく豊かな自然が残されている。これは鉱山業に欠かせない樹木が損なわれないように適切に管理されていたためである。石見銀山では、近隣の村から30年周期で木材を獲得するようにしていた。実際に、森林は30年の間に回復し、自然との共生が実現していた。

そこかしこに散乱している岩石は明治以降に捨てられた銀鉱石。もとはなめらかな坂道であった。

600本に及ぶ間歩のウチ、発掘されたのは1%に過ぎない。石見銀山では3つの採掘法が行われていた。地表でむき出しになっている鉱脈を掘る「露頭掘り」、鉱脈に沿って地下に掘り進む「ひ押し堀り」、連続する鉱脈に対して水平に掘り進み何本もの鉱脈を掘り進む「横相」である。地表に露出した銀鉱石をほったあと、次第に地中深くに進む間歩となった。

純度が低く、使いものにならない銀鉱石は地面に放置されている。

石見銀山最大の間歩である大久保間歩。奉行である大久保長安が槍を持って馬に乗ったままで入ったという伝承からその名が付けられている。予め地中の鉱脈の向きを予測しそれに直角に切り当たるように横穴を谷から掘る手法である「横相」が用いられている。坑内には江戸時代と推定される縦横に走る坑道や明治時代の開発で坑道を拡幅した様子などが見られる。規模が大きい大久保間歩は山全体の換気や排水の役割も果たした。

鉄子（てっこ）と呼ばれる鏨を手に岩を掘り続けた。人の手によって掘られた側壁は非常になめらか。

明治になってから拡幅された側壁。爆薬を用いて広げられた側面は、江戸時代に手掘りで掘られた側壁よりも荒く崩れやすい。

銀鉱脈を求めて縦横に間歩が広がっている。

大久保間歩から別の間歩、金生坑に降りる明治時代の立坑。30mも下にある間歩を寸分の狂いもなく掘り当てている。

大久保間歩では明治以降のトロッコの線路や枕木の跡も残されている。

銀鉱山の途中の平地に人々は一族で暮らした。穴は坑道ではなく、道具を収納するスペースとして用いられていた。

鉱夫の妻は家で鉱石から純度の高い銀を取り出す作業を行っていた。写真の石は銀鉱石を置いて作業を行うために使われた。銀鉱石が置かれた箇所がすり減っている。

山師の安原伝兵衛が17世紀頃に夢のお告げによって発見したという伝説の残る釜屋間歩。上下に黒く筋のように見える銀鉱脈に沿って掘り進んだ。当時、この間歩から産出した銀年間13.5tを徳川家康に献上した。

ここでは、一連の作業が行われていた、江戸時代はじめ頃の鉱山町の一部。最盛期の鉱山町では狭い谷をできるだけ利用するために硬い岩盤を掘り込んで多数の平地が作られ建物が建てられていた。約70段、20mにも及ぶ石段があり、最上段にの平坦地には石塔の基壇と推定される石積みがある。岩盤の斜面や平坦地の床面には多数の溝や水溜が作られている。斜面情報から雨水を集め、その水を利用して比重選鉱が行われていた。ここからは銀と鉛の合金も発見され、鉱石から銀を取り出す高度な技術である灰吹法の一部が行われていたことがわかっている。

龍源寺間歩は数ある間歩の中で、唯一常時一般公開が行われている。現在は落石を防ぐために入り口は丸太で囲まれている。龍源寺間歩も横相という採掘法を用いて掘られた間歩である。間歩を掘るために、見立てと呼ばれる銀の在処を予測する技術が用いられた。地表の様子を調べただけで、地下を走る鉱脈の位置を予測した。

龍源寺間歩内部は、歩きやすいように整備されている。記録によれば、江戸時代の採掘作業は、暗闇の中で油を入れた貝殻に火を灯し、昼夜に交替制で行われた。龍源寺間歩は水平に約600m掘り進んでおり、採掘と同時に鉱石運搬の幹線坑道としても用いられた。

排水のための立坑も掘られている。龍源寺間歩にたまった水を約100m下の永久坑道へ排水したと言われる。

龍源寺間歩は入り口から160メートル地点から奥は高さ役2m、幅約90センチで、それより手前に比べ狭くなっている。さらに、195メートル地点で落盤のため塞がれている。

銀山の守り神である金山彦命をを祀る差姫山神社が龍源寺間歩の出口付近に佇む。

石銀とよばれる最大の鉱山集落跡へ繋がる道。

灰吹法で作られた銀を灰吹銀という。灰吹法では、まず鉱石を溶かして銀と鉛の合金を作る。これを鉄鍋につめた動物の骨の灰の上に置き再び溶かす。銀と鉛の合金を高温で溶かすと、銀よりも酸化しやすい鉛は表面張力が小さくなり皿に染みこみ、あとには純度の高い銀だけが残る。