※実在の地名、人物とは一切関係しません。
あくまで創作の中での話です。 未成年の飲酒描写が出てきますが、この世界では13歳からワインは合法になります。
※時系列が入り乱れるので、補足をつけてます
(エピローグ)
[……1年後 ヴェルマーレ イチモ家…]
ねえお母さん、やばい。 ちょっとこの服、やっぱりこれじゃないといけないの？
………着にくい。 とにかく着にくい。
なんで人間は、こんな着にくい、実用性ゼロの服を発明したんだろう。 謎である。 本当に心から、謎である。 そもそもこの訳の分からないヒールとかいう靴、死ぬほど歩きにくい。 まあそりゃ実用性ゼロだから当然かもしれないけど。
あと、この服、全体的にヒラヒラして、白すぎ。 なんだこれ。 どんだけ漂白剤かけたらこういう風になるんだろう ………。
私は鏡の前で、豹変したお化けみたいな自分の姿を見て、若干げんなりして、それから躓きながらも、玄関に向かって歩き出した。
玄関の扉の前で、お父さんが待っていてくれた。
私は、お父さんの顔を正面から見た。 お父さんの眼は、もうすでに涙に潤んでいて、なんだか私と話したそうだったけど、言葉が思いつけないみたいだった。
だから、これは当然のことだと思うけど、私の方からしっかりと伝えた。
………今まで育ててくれて、ありがとう。 お父さん。
………いっぱい心配かけて、ごめんなさい。
お父さんは涙を拭おうともせず、私を抱きしめてくれた。 私も少し泣きながら、お父さんの暖かな抱擁を受け入れた。
ーお前は………俺の、自慢の娘だ。 アリア。 幸せになってくれ。
俺の願いは、もうそれだけだ。
私は涙を拭って、家の外に出た。
お父さんが運転するって言ってくれたけど、私は断った。 ただでさえけっこう緊張してるんだ、せめて好きな運転くらいは私にさせてほしい。
………というか、大体なんであいつのためにフローラまで運転しなきゃいけないんだ。 あいつの方から来いよ。 花婿ってそういうもんじゃないのか。
………勘弁してほしい。 先が思いやられる。
私は軽くため息をついて、音楽をかけた。
やれやれ。 やっぱり、音楽ってこうじゃないとね。
強制されて歌わせる音楽なんて、やっぱり、ロクなもんじゃない。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
フローラの教会は……まあけっこう、小さかった。
僕はてっきり、あの街の真ん中くらいのどでかい教会でやるものとばっかり思ってたんだけど………まあ、アリアさんの意向ならしょうがない。 確かに、あんなどでかい教会で式を開いても、なんか恥ずかしい気もするし………。
……勘弁してくれ。 まだ式も始まってないのに、なんか僕の方が恥ずかしくなってきた。 なんだこれ。 僕は思わず隣に座っていたノアに助けを求めようとしたけど、ノアはノアでなんか緊張してるし。 僕たち、ただの招待客だろ。
………トマトだ。 ノア、僕たちはただのトマトか蜜柑……そう思った方がいい………そう思わないとなんか緊張してだめになる………。
ー………なんで貴方が緊張してるの…………。
確かに。
ノアの脚は、あれからだんだん快復してきて、今では松葉杖無しでも歩けるようになった。 でもノアは、自分の顔の火傷だけは、決して治そうとしなかった。 僕は何度か治療を勧めてみたけど、そのたびに彼女は、同じ事を言って断った。
ー……これは、遺しておくの。 忘れちゃいけない事を、忘れないためにね。
………それはきっと、僕自身のためにも、良かったんだと思う。
ノアの火傷を見るたびに、僕も思い出すから。
もう絶対に、家族との約束を破っちゃいけないってことを。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
…………おお、神よ…………今日はなんと、なんと素晴らしい日だ…………
あのアリアが………夢にまで見た花嫁衣装に身を包んで………俺のそばにいる……。
馬子にも衣装とは………まさにこのことだ……………
ー………この期に及んで、ぶち殺すわよ、クズ…………。
おお、怖。 アリア……………俺と結婚してくれて、ありがとうな。
ー………はあ？ 何よ、また急にそんなこと………。
………俺はな。 お前達と、ノアを助けに行って……ヘリオを助けて……いやあれは助けたうちに入らないのか。 ただ寒い所に行っただけだもんな。
変な話だけどな、俺はそれで、なんだか救われた気がしたんだよ。
…………ずっと、呪ってたんだ。 俺は、家族が全員死んでいく時に、何も出来なかった、その時には戦場でくだらないルポを書いてた、兵士達が俺の前で銃弾の雨に斃れて死んでいくのを見ながらな。 くだらない話だ。 金のために、そうやってなんの足しにもならない記事を書いて、結局、家に帰ったら、みんな死んでたんだ。
今でも思ってるさ。 あれは、俺のせいなんじゃなかったのかってな。
ー…………はあ。 またずいぶん、壮大なお悩みを抱いてたものね。
おい、俺は、わりと本気でーーーーー
ー…………だから、今度は失わないようにしてね。 それだけよ。
ねえ。 ミカエル。 ………ノアちゃんを助けに飛空挺を運転してた時のあんた、割と、……………嫌いじゃないわよ。
……………そうか。 まあ、そうなれるように努力するよ。
………………これからも、よろしくな。
ーええ。 こちらこそね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
僕はフローラの教会の裏庭のベンチに座って、結局禁煙したはずの煙草を吸っていた。 まあ、あれだ、タールが入ってない電子タイプのやつだから、まあこれはセーフという事にしてもらいたい。
別に公的に招待を受けたわけじゃないし、(そりゃそうだろう)、まあ式が終わるまでじっとしてよう。 それにしても、フローラが晴れるなんて珍しい。 雲ひとつない晴天だ。 なんだ、やっぱり、あいつら運も良いんだな。
僕は何本かタール抜きの味気ないお茶みたいな煙草を吸って、もう嫌になって、正直暇だしビールでも書いに行こうかと考えて、ベンチを立って、そこでようやく、彼と会うことが出来た。
…………イチモ先生。
ーおお。 神童のガキが、随分と大きくなったもんだな。
…………貴方にも、娘さんにも、本当に申し訳ない事をしました。
ー………なんだお前、改心したのか？ なんか気持ち悪いぞ、そんな簡単に謝られるとな。 …………まだ、世界政府だの、世界国家だのの構築は、進んでいるらしいな。
………その通りです。 もう殆ど、具体的な形を取っています。 イチモ先生、俺はまだ、管理構想自体が間違いだったとは思ってませんから。 消費と浪費に対して、何らかの歯止めをかける機構はどうしても必要です。 そうしなければ我々は滅びに向かう。 それだけは確信しています。
ーああ、分かった分かった、めでたい席に似つかわしくない話はよしてくれ。
………まあ、お前、結局、シュラーフの難民を受け入れたらしいな。
随分と、お前の高尚なご思想に反した事をしでかしたじゃないか。
……………僕は、ある意味においては間違っていた。 それは認めます。
僕も、藤鷹君も、南条君も、ルーアも…………間違っていたかもしれない。
ですが、イチモ先生。 僕は諦めませんよ、必ず、別の手段を考えて、いつか僕の考えは実行に移します。
ーはあ………。 やっぱりお前、なんだかんだ頑固な奴だな。
……………まあ、手段を、間違えるなよ。 目的は滅亡に向かって走る人類を救う事だろう、そのために取るべき手段を間違えるな。 俺から言えることはそれだけだ。
……………ええ。 それは…………ノア王女に、教えられましたからね。
ー……お前達には、力がある。 思考力も、頭脳もある。 何もかもが揃ってる。 だからこそ間違えるなよ。 過ちに気付いたら、それを認めて、正せ。
……………まあ、もうお前に、言い聞かせることでもないよな。
なあ。 久々に、飲みに行こうか。
フローラにも美味い店があるんだ。
お、イチモ先生、珍しく奢ってくれるんですか？ 期待してますよ、ステーキなら僕は500kgは余裕で食えるーーーー
ー…………本当だな。 食えなかったらお前が全部払えよ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
おお…………アリアさん、ミカエル………まあこの男は正直どうでもいいけど………
似合ってますよ、ウェディングドレス。
最高。 やっぱり、教会で結婚式ってロマンチック。
私がぱしゃぱしゃ写真を撮ってたら、なんか神父さんに怒られた。 あれ、これそういう場じゃないのかな………なんか間違えた？
まあいいや。 私も早く告白してもらいたい。 ローーーーーーマンティックな奴を期待してるから、そう言ったら彼は果てしなく微妙な顔をして、まあ、出来る限り頑張る、そう言ってた。 期待しておこう。
お、ブーケだ、ブーケ投げてくれる、はいはい、わたしわたし、どう考えてもこの流れは私しかないわね。 アリアさん、焦らさずに早く投げてよ、投げて…………
……………………………………
………………………………………なんでそこで、ヘリオちゃんが受け取るの？
おかしくない、それ？
…………………まあ、いいか。
この場に皇国出身の私が出席させてもらってるの、殆ど奇跡だし………。
とりあえず、歌いましょう。 お2人の結婚を祝福して！
じゃあ歌います、紗奈と、ヘリオちゃんで、『愛にすべてを』………！
ーおい、やめてくれ、頼むからやめてくれ、恥ずかしすぎるから………。
ヘリオちゃん、何言ってるの、これから先、一発芸とか余興くらいちゃんとこなせないと、大変よ、さあ歌いましょう、ほら、恥ずかしがらずに！！
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
わたしは、ルカをとみんなを連れて、遠足…まあそれに準ずるものだ…に出かけていた。 引率と運転手には、わたしの他に、藤鷹さんと、南条さんが引き受けてくれた。
…………というか、アイツなんでフローラに行ってるの。 用事があるからとか適当に話してたけど、どうせ飲みに行ってるんでしょう…イチモさんと。
大体、なんで遠足で滝を見に行かなきゃいけないんだろう。 ルカの発案だけど…。
わたしの娘ながら、本当によくわからない事をする。
ーねえ、お母さん、あれ、滝、滝が見えたよ、すっごい水量、裏側までちゃんと見える、完璧ね、あ、ちょっと藤鷹さんさん、何ボヤボヤしてるの、早く一眼と三脚とってよ…………はあ？ 何？ 20分？ そんなんで撮影終わるわけないでしょ。 ほら、みんなもカメラ持ってるでしょ、持ってないの貴方達だけよ、全く………。
…………なんでわたしたちが怒られてるんだろう。 理解に苦しむ。
まあ、みんな何だかんだ楽しそうでよかった。
こうして見てると、どの子も、本当に、わたしたちと何も変わらない。
遊んで、楽しんで、悩んで、怒って、悲しんで………。
……わたし達が取ろうとした手段は、やっぱり、間違いだったかもしれない。
だから、責任だけは、逃げずにちゃんと果たさなくちゃね。
……………ねえ。 ノア。
貴方が、それを教えてくれたのよ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
[……さらに1年後 ヴェルマーレ とある下宿…]
翌朝目が醒めると、何故だか酷く窮屈だった。
というより、寝ている間もずっと息苦しかった気がする。
それは、この小さな小さなソファーどう考えても寝る用途じゃないーで寝たせいだ。
大体、何でこの下宿、ベッドが１つしかないんだろう……お陰で毎日交代交代に寝る羽目になってる。 わたしは慎重に身体を起こして、ソファを乗り越えて床に降り立って、軽く肩をほぐした。
ヘリオはもう起きていて、すでに洗面所で歯を磨いていた、彼女はいつだってわたしより早起きなのだ。 おはよう、わたしが声をかけると、彼女はいつも通りの少し低い声でおはようと返してきた。 相変わらず、この子は朝はテンションが低い。
そういえば、今日は何か夢を見たような気がする。
安らかな夢だった気がする。 覚めた時には何も残らない、そんな夢を。
眠りはいつだって、わたしたちを現実から連れ去ってくれる。
その先がどんな世界かまでは、現実より幸せかどうかは、分からないけど。
…………ヘリオ。 朝ごはん…………無くない？
ー……………お金が無い。 ノア。 現実を見てくれ。
……………いやまあそれはそうだけど…………せめて何か………………
ー………………オレンジ。 もしくは贅沢を言って、トマト。 1人1つだけ。 あと、お茶とコーヒー。 それ以外に買うお金が無い、ok? これは事実だ。
………………そうですか。 奨学金って、思いの外ケチなものなのね。
わたしは眠たい瞳を擦って、外に出た。
近くの雑貨屋まで歩いて行って、軒先に並んでた、できるだけ身の詰まってそうなオレンジを選んで………重さを手で測った。 こんなスキル身につけたくないんだけど………。 まあ生活のための知恵だ。 しょうがない。
それと、とりあえず死ぬほど甘いお茶と、相変わらずヘリオしか飲まない、死ぬほど苦いコーヒーを買って、カウンターに持って行った。 お金が厳しいなら、このコーヒーやめて欲しいんだけど……ヘリオしか飲まないのに………。
ー………はい。 オレンジ3つと、お茶と、コーヒーね…………。
店主も眠たそうだ。 そりゃそうだろう。 日曜の朝6時なんだから。
わたしは、コーヒーとお茶を溢れないように慎重に手提げ袋の底に立てて、できるだけ揺れないように、慎重に3つのオレンジを配置した。 トマトはまあ…今度でいいか。 気分を変えたくなった時にでも………。
わたしは、朝の空気を楽しむために、少しゆっくりめに家への道を歩いた。
それでも7時前くらいには扉の前について、それから、ノブを回した。
『『おかえり。』』
2人がそう返してくれて、わたしはみんなが待つ家の中へと、足を踏み入れた。
(おわり)
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※あとがき
武神さん、takaさん、ほんとごめんなさい。 なんかいっぱいキャラを借りました。
特に神童さんについては………まあほんとごめんなさい。
今回はわりとファンタジー風に書いてみたつもりですが、相変わらずファンタジー要素ゼロで進行してしまった感はあります。
魔法とか魔晶とか、どこいったんだこれって感じですしね。
すみませんでした。
また気が向いたら、駄文を書き散らしますので、よろしくお願いします。