※実在の地名、人物とは一切関係しません。
あくまで創作の中での話です。 未成年の飲酒描写が出てきますが、この世界では13歳からワインは合法になります。
※時系列が入り乱れるので、補足をつけてます
(第13話)
私は床に転がってる3匹を順々に見下ろした。 よくもまあ、みっともなく足掻いてこんなとこまで来たもんだ。 往生際の悪さだけは認めてやるよ、敬意を表する。
さあ、私は手を叩いて話しかけた。
誰からにする？ 誰からお前らの目の前で歌い踊らせてほしい？ アリアか？ ミカエルか？ それともイチモ先生か？ みんなお前らのせいで狂っていくぞ、正気を失うぞ、どういうことか分かるか、何もかも忘れちまって、ただの動物に戻るってことだよ。
いいじゃないか、動物王国だ、王女様、その片目だけでよく拝んでおけ、みんなお前のせいで狂って死んでいくぞ、シュラーフの屑どもも、お前に関わった奴も、全員そうなる。 ………なあ、選べよ、誰からがいい。
ー………この、クズ野郎…………。
はぁ？ ヘリオ、お前よくそんな事を平然と言えたな。 か弱い王女様を騙して国を滅ぼすように仕向けたお前が、よくもそんな事を。 良かったな、この王女様はこれからお前のせいで一生焼け爛れた顔で生きていくんだぞ、芋虫のように地べたを這い蹲ってな。 しかしお前よく見捨てられないで拾って貰えたよな、どんな風に尻尾を振ったんだ？ お得意の僕可哀想ですアピール作戦か、まあそれもいいだろう、結果オーライ、こうして王女様と無事床に転がされてるわけだしな。
ー………貴方は、本当に最悪な人間です。
おいおい、ハルカ、娘とそっくりな顔でそんな事を言われると私も結構傷つくぞ、少なくともあまり気分のいいもんじゃないな。 やっぱ商品には自由に喋れない機能もつけといて正解だったな、お前だけはちょっと例外的に造っちゃったから、そういう機構を弄る時間が無かってね。 それに関しては申し訳ない。 お陰で君もいろいろ思い悩んでしまったみたいだしな、本来そういう悩みを抱く必要無いんだよ、お前ら。
…………礼を言うとすれば、娘を助けてもらった事くらいだ。 ありがとう。 それに関してだけは、本心から礼を言う。
ルーア。 お前からも何か言いたいことがあるんじゃないのか、ノアにな。
ルーアは私の方を横目で見て、それからノアを見降ろして口を開いた。
ー…………貴方のことが、ずっとずっと嫌いだったわ。 ノア。 何も知らない無邪気な貴方の事が。 ねえ、貴方とわたしはお父さんが違うのよ、知ってた？ わたしはあの豚の娘じゃないわ。 あの豚は、戦時中に国を乗っ取って、わたしたちのお母さんを騙して強姦して、それで産まれたのが貴方よ、ノア。 わたしはずっとあの豚から疎まれてきたわ、辛い思いもしてきた、ねえ、わたしがあの豚に何をされてきたか知ってるの、貴方、わたしは夜ごとにあの豚に犯されてきたのよ、殺したかったわ、ずっと、そして貴方がそれをやってくれた。 ありがとう。 ノア。
……………あの掃き溜めみたいな王国を、ぶっ潰してくれてね。
誰も何も言わなかった。 私は煙草に火をつけて、ヘリオとハルカは呆然としてルーアを見上げ、南条君は3匹から目を離さなかったけど、微かに痛々しそうな表情を浮かべ、唇を噛んでいた。
そんな中で、その豚の実の娘だけが、俺たちをじっと見ていた。
おい、お前、けっこうムカつく眼してるな、よく見ると。
なんだ、何か言いたいことでもあるのか、別に喋ってもいいぞ、どうせ今日中にシュラーフは焼き払うんだ、ルーア、君の負の象徴をな。 この世から綺麗さっぱり消し去って、資源だけは有効利用してやる。 その後で、お前らの大事なお友達みんなで、動物園の檻の中で大合唱パーティだ。
ー貴方は、何を望んでいるの？
焼きトマトが俺に話しかけてきた。 何を望んでるか？ 平和な世界だよ。 それ以外にあるか。 きっちり美しく整理して管理された世界だ、俺が整備してやるよ、整備のために邪魔になる国も何個か消してやる、シュラーフ以外にもいろいろあるぞ…。
ー……立派な世界ね。 厳しいことだけど、それが必要なら。
そこには、どんな人が住んでるの？
お、トマト並みの脳みそでも理解できるのか、感心感心、なんだ君、ちょっとは成長したのか？ ……ああ、どんな人が住んでるかって質問だったな。 簡単だ、人と、そうじゃない奴ら、それだけ。 大雑把に言うと2種類だけだ。
……なあ、極端な考えだって思うだろ？ 俺もそうさ、今でもそう思って自問する時もある、だけど正直な話、今だってそうだろう？ 太古の昔から、人間が知恵の果実を齧ったその時から、それはずっと変わらないルールなんだ、摂理と言い換えてもいいかもしれない。 俺は、そういうのをもう少しはっきりさせておきたいんだよ。
ニュースで毎日毎日、どこか地球の裏側のことが報じられている、彼らは飢えて死んでいく、渇いて死んでいく、寒さで死んでいく、暑さで死んでいく、それを見て大勢の人は可哀想だって言うだろう、誰かが救いの手を差し伸べてあげなきゃ、そう言う奴も居るだろう、だけどその誰かは常に『自分以外の』誰かだ、人じゃなくてそれは国かもしれない、大事なことは、兎に角『自分』以外だったら別に誰でもいいのさ。
…………それで誰かがいざ助けに行って、そこで辛い目に遭った時に、みんながそれをニュースで観てどう言うか分かるか？ 『自己責任』だって、そう言うのさ。
要するにな、俺が考えてるのはこう言うことなんだよ、人間は結局のところ、2種類しか居ないんだよ、持ってる奴と、持ってない奴。 それだけ。 それをみんなが認めたくないだけなのさ、心の底ではみんな自分は前者のつもりだと思ってるくせにな。 全く、だったら潔く認めたらいいじゃないか、地球の限りある資源は、自分達だけのもので、自分達だけが享受できるものだってな。 弱者は当然、何も持たざるべきで、助けの手を差し伸べる必要なんて無いんだってな。 空気や水と同じだ、誰だってそれがなくなるまで気付かないんだ、そして全ての資源やら食料やらを消費し尽くした時にようやくこう言うんだ、助けて下さい、助けて下さい、わたし達が何をしたって言うんですか、怯えた目でそう縋るように口を揃えて言うのさ。
…………ごめんちょっと長くなったな。 だから俺が、そのあたりをハッキリさせてやるんだよ。 持たざる人間どもを綺麗に掃除して、その後でそいつら全員よく似た道具に置き換えってやろうって、そう言ってるんだよ。
……………なぁ、ハルカ。 お前みたいにな。 お前は俺の娘のために尽くしてくれたんだ、でも顔も体も全く一緒でも、別に特に感じる所はないねぇ、君は君、ルカはルカ。 それでいいじゃないか。 その間にどれだけ分厚い壁があるにしてもな。
ー……………それが正しいかどうかは、わたしには分からない。 でも、貴方の言うことが真実なのかもしれない。 少なくとも………何も知らずに国を滅ぼしたわたしよりは、世界にとって正しいことをしてる。 そうなのかもしれない。
ノア……！ お、床の犬がなんか必死に喋ってる。 やめろ、そんなこと言わないでくれ、こいつは、こいつは…………！ なんだこの犬、本気で鬱陶しいな。 なんか泣いてるし。 やっぱり最初はこいつから歌わせてやろうか。
ノア、間違ってます、ダメです、こんな奴の言うことに耳を貸しちゃ……！
……マジでこいつ、ルカと同じ顔で言われると厳しいものがあるな。 やっぱり造った奴らの顔は醜く、とびっきり醜く設定しとこうか。 人間見た目が8割ってよく言うからな。
それに比べて、焼きトマトの方は意外と聞き分けあるじゃないか。
なんだこいつ。 やっぱり人間、試練を潜り抜けた方が成長するのか？
ー……………でも、神童総裁。 貴方は、やっぱり間違ってます。
こいつは真っ直ぐに俺の目を見て、そう言い切った。
…………前言撤回。 まあ、意見がいろいろあるのは承知してるよ。
ちなみに、ご参考までに、何が間違ってるのか聞かせてくれないか？
ー…………目的の方はよくわかりません。 間違ってるのは貴方の、手段の方です。
手段？
ー…神童総裁、貴方は……それがどんなに正しい目的でも……それを叶えるために、他人を利用している、心の底で、嘲笑って、見下して、利用している、それがどんなに近しい友達でも、家族でも………貴方は、利用している。 他人が自分の思い通りに動かせるものだと思ってる、そしてそのための強力な力を持っている。 そして、その人たちが何を考えて、どう生きてるかなんて、本当は、貴方にとってはどうでもいいことなの、貴方はきっと最後にはこう言うわ、『正しい目的のためなんだ、ある程度の犠牲はしょうがない事なんだ』、そう言って誰も彼もを見捨てていくの。
………だけど、それは間違ってる。 どんな人にも自分の人生があるし、想いがある、それを貴方は無自覚に踏み躙っているの。 だって、正しい目的のためなんだから、そう言って蹂躙する、その人達がもし逆らえば、貴方はきっと替えを探すだけでしょう、それがどんなに親しい人達でも。
………わたしは、それをしたから、顔を焼かれて、歩けなくなった。
このクズが、俺はこいつの頭を踏み躙ろうとして、そしてやめておいた。
熱くなるな、俺は自分に言い聞かせる、こんなクズの言い分に耳を貸すな、俺がいつ友達や家族を見捨てただと、利用しただと？ 俺たちは目的を共有した、そのための手段も共有した、家族を愛してきた、娘のためなら命さえ投げ出しても惜しくない、それは俺の本心だ、万が一の事が、南条君にも藤鷹君にも、ルーアにも、ルカにも、危険が及ばないように細心の注意を払ってきた、確かに、俺には敵も多いからな。
落ち着け。 落ち着け。
俺は、私は、平静を取り戻して、静かにノアに向かって尋ねた。
ノア。 君はやはりまだ間違ってる。 幼い。 君の考え方自体はなかなか立派だ、聞く価値もある。 認めよう、確かに君は大きく変わった。 …南条君、ノア王女の拘束を解いてくれ、手を貸して立たせて差し上げろ。
私は椅子に座りなおして、デスク越しにノア王女と向き合った。
南条君がノア王女を立たせてあげる間に、私はもう一本煙草に火をつけた。 普段いろいろ文句を言ってくるルーアも、今日、この場では、何も言わなかった。
なあ。 私はノアに向かって話しかけた。
この状況がわかるか？ 分かるよな。 私の声１つで、君達はみんな動物園行きだ、脅しじゃない、本当にそうなる。 そんな状況で、ハッキリと私に反対意見が言えるとはね。 ちょっと見直した。 これは本心だ。 失礼な事を言って済まなかった。
……認めよう。 意見は違うけどな。 確かに君は、王に相応しい器かもしれない。
少なくとも、今の君は確かにそう見える。
だけど私は、やっぱり君とは意見が合わない。 大事なのは手段の方じゃない、目的の方だ。 もちろん手段に関してもちゃんとケアはしてる、確かに、私は貧しい国と、そこの人民どもがどうなるかとか、そんな事は気にしていない。 それは認める。 その点に関しては、確かに私は狂っていると言われても仕方がないかもしれない。 私にとって、そこにどんな人間が住んでようが、何を思って生きてようが、それはあくまで地図の上の数字としてしか見えてこないんだ、どの面積に、どれだけの数が住んでいて、資源は十分か、外貨は十分か、そういうのでしか判断してない。
………だが、家族と友達の事は、道具だとは断じて思っていない。 それだけはちゃんと言っておく。 私は、確かに、他人の事を異常に軽んじる傾向がある。 それは尤もだ。 だけど人には限界がある、全てを守れるわけじゃない。 だから、自分の手の届く範囲の人だけはしっかり守るつもりだ。 君はそれでも、私のとった手段が間違ってるって、そう言うのか？
ー………ええ。 意見は変えません。
ほう。 何故？
ー見えなくなるからです。 神童総裁。 貴方は全てを見てるつもりで、見ていない。 見逃してる。 貴方の取ろうとしている手段がそうさせた。
…………まだ、よく分からないな。 もう少し具体的に教えてくれると助かる。
ー…………貴方は、自分の娘から、その幸せを奪っている。
…………ルカから？ 何故？
ーまだ貴方は分からないの。 神童総裁。 分からないなら、ハッキリ言うわ。
……………ハルカは、貴方の娘よ。
……………………………………は？ お前、本気で、何言ってるんだ？
おい、よく見ろよ、ヘリオ、君も同意見だろ、何わけわかんないこと言ってんだってな。 ハルカ、お前、俺とルーアの娘か？ 違うよな、君は心臓を提供するためだけに産まれてきたドナーだもんな。 南条君、ルーア、君たちも訳わかんないだろ。
………ノア君、違うぞ。 そういや君にははっきり言ってなかったな、確かにハルカは特別なドナーだ、心臓を持って産まれてきた。 ルカと、顔も、身体も、全て同じ、違うのは歩んできた人生と、心だけだ。 ハルカ、確かに君は、ほんの一時期だけど藤鷹君に育てられた事がある、産まれ落ちてから、ルカに心臓を提供するまでの、本当に短い時間だけどな。 そこで藤鷹君が何を思ったかまでは、俺は知らない、もしかしたら確かな愛情を注いでいたのかもな。 だけど結局彼は君をドナーとして提供した、それでルカは助かった、今、君の心臓の代わりに動いているのは魔晶の欠片だ。
なあ、ノア君、適当にものを言うのはやめたらどうだ。
ルカは俺の娘だ、ハルカは違う、そこには埋まらない溝が……………………
俺は、言いかけて、やめた。
ハルカを見た。 ハルカも俺を見返した。
まさか。 そんな事が、あるわけがない。
ルーア。 俺は小さな声で、妻に語りかけた。 声が震えているのを隠したかった。
……ハルカの上着を脱がせろ。 施術痕を、見せてくれ。
妻がハルカを起こして、なぜかついでにヘリオも立ち上がらせてあげて、その後でハルカを手伝って上着を脱がせた。 こいつの施術履歴は全て知っている、管理している、腎臓と、小腸と、あと片っぽの肺だ、それと、娘に差し出した心臓………。
俺は椅子から立ち上がって、祈りながら、ハルカの体の印を確認した。
ー…………簡単な見て分かる機構もつけてます、摘出した部位に印が浮かび上がるように設計してます。 小さな赤い印が…………………ー
瀬田主任はそう言っていた、俺はハルカを見た。 印だ、印を見つけろ、あるはずだ、必ず、腎臓…腸…肺……………
無い。 心臓にだけ、印が無い……………………………
………………まさか。 嘘だ。 こんな事が………嘘だ……………いつ…………………
藤鷹……………君……………………まさか…………………君は………………………
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
神童総裁が、自分の椅子に倒れ込んだ。 その眼は最早、目の前の何も映し出していなかった。 彼は呆然とした表情で、ただ空を見ていた。
ー………貴方…………………
ルーアお姉ちゃんも、力なく神童総裁に声をかける。 何を呼びかけるわけでもなく、ただ、貴方、そう言ったっきり、何も喋らなかった。 喋れなかった。
しばらくの沈黙が続いて、ようやく、神童総裁が、ぽつり、と呟いた。
ー………………南条…………ノアと、ヘリオを、連れて出てくれ………
……………それから、藤鷹君を……………呼んで、きてくれ…………
…………………ハルカ………………君は………………残ってくれ。
わたしとヘリオは、南条に連れられて廊下に出されて、わたしはまたヘリオの肩を借りて廊下を歩いて行った。
ーノア……………いつから…………気づいてたの。
君は、ハルカの心臓移植の事なんて、知らないはずじゃ…………。
いつからだろうね。 でも、けっこう前から気づいてたよ。
たぶん、確信したのは……ハルカが神童の事を、『お父様』って言った時かな。
いつだっけ…ホテルだったと思うけど、オドペレイトの。
あれは、神童に言わされてるとか、そういう感じじゃなかったから………。 多分、ハルカちゃんの心のどこか深い所から、自然と出てきたように、そう思ったから。
ー君は……………。 僕は…………見てるつもりで、やっぱり何も見てなかったんだな。
神童総裁と同じで……………。
そんな事ないよ。 わたしはヘリオにそう答えた。
現に、今こうして、わたしをちゃんと見てくれてるし。
ー…………意味わかんないけど、まあ、ありがとう。 フォローしてくれて。
わたし達はそんな話をしながら、廊下を歩いて行った。
伝えなければいけない事は、神童総裁に伝えた。
あとは、彼が判断する事だった。
わたしは、イチモさんが言っていた事を思い出していた。
『人の本当の価値はな、どうしようもない絶望的な状況で、何を選択するか、どう行動するか。 それで決まるんだ。』
神童総裁。
彼は、今何を思って、これから何を選択するのだろう。
それは、わたしに分かる事じゃなかった。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
僕とルーアは、ハルカに向き直った。
…………上着。 もう着ていいぞ。 寒いだろ。
僕がそう言って、ルーアもやっと気付いたようで、持っていた上着をハルカに返した。 ハルカ………………君は、昔のことを……………覚えて、いるのか？
ーいえ…。 遠い、昔の話だと思いますから、あまり……。 だけど、たまに夢の中だけで、思い出す事はあります…。 ………暖かい手の、感触を………………。
そう、…………か………………。
しばらくの沈黙が部屋を覆って、そして、南条君に連れられて、藤鷹君が入ってきた。 彼は、ハルカと、僕と、ルーアを、代わる代わる見た。 そして彼は、おそらく、この部屋で明らかになった全てのことを察したようだった。
ー…………神童…………ルーアさん………………済まなかった。
彼はそう呟いて、僕たちに頭を下げた。 深く、深く。
なあ。 僕は怒るつもりも、気力も無かった。
ただ、今は全ての事実を確認したかった。
……君が、ルカと、ハルカを……入れ替えたのか。 施術が終わった後に………。
彼は頭を上げて、僕を見て、…そうだ、そう短く答えた。
………今更、理由を聞くまでもないか。 君は、あの僅かな期間、一緒にいたハルカに………愛情を覚えた、親としてのな…………そういうことか。
彼はまた頷いた。
……………なあ。 じゃあ、最後に教えてくれ。 どうしてその事実を、僕とルーアに、今まで黙ってたんだ。 どうして今、この期に及んで……………。
ー…………神童。 僕はずっと怖かったんだ。 自分が発案して推し進めた計画の中止を君に申し立てる、それもあれだけ、法案とか、いろいろ整備して心血を注いでくれてた君にな。 ……今思えば、それが間違いだったんだ。 神童……あの技術で、実際に産まれた子供達を、抱いてみた事があるか。 僕はそれでようやく気付いた、理屈とか、合理的とか、そういうのじゃない。 あれは、人間が手を出していい技術じゃ無かったんだ。 …………僕は………………ハルカが不幸になるのが、耐えられなかった…………。
……………だから……………だからあの時………………君の娘と、ハルカを…………
僕は何も言わなかった。 ルーアも、南条君も、ハルカも、口を開かなかった。
……………僕は、まず自分がしなければならない事を、果たす必要があった。
藤鷹君。 僕は彼に語りかけた。 君を許す許さないってのは、正直、今決められないし、ここで時間を割く話じゃない。 そう思う。
…………………なあ。 俺たちは、どこで間違ったんだろうな。
……………………そこから、考え直そうか。 みんなで、一緒にな。
それから、僕は椅子から立ち上がって、ハルカの前に立って……深く、頭を下げた。
……………済まなかった。 俺が、間違っていた。
……………君の、人生を、奪ってしまった。
俺は頭を上げなかったけど、ハルカが俺を見つめているのは分かった。
許してもらうつもりはなかった。 自己満足に過ぎない。
なあ。 ルーア。
ー………………ルカ……………ごめん、なさい………………。
俺と妻は、頭を深く下げて、それから、ハルカを見つめた。
彼女は………俺たちの娘は………小さく、呟いた。
ー…………お願いがあります。
何？
ー……………ルカちゃんを、これからも、大切にしてあげてくださいね。
自分たちの娘なんだから……………。
……………お父さん。 …………お母さん。
ルーアが泣いている。 藤鷹君も。 ………南条君も。
俺はハルカから目を背けて、煙草に火をつけた。
それから、小さく呟いた。
…………ありがとう。
………………いろいろと、これからのプランを、見直さないとな。
(第13話おわり)