極東から訪れたというあのハーフリングのような青年は結局無事に目を覚ましたのだろうか。どうみてもそういうことには初心であることが容易に推察できる彼があの美しい百合の花をみて卒倒するのは分かるが、いくらなんでも長い時間意識を失いすぎているのではないだろうか。まぁ、そばにいるのがドワーフだけなら心配だが、あの小説家もついているから、あまり心配はいらないのかもしれない。あの小説家は、気ままに自己中心的に生きているように見せかけて、結構芯の通った良い女性だと、ほんの数日間の付き合いでしかないがそう感じた。あの青年も、彼自身の気持ちに気づいていたかどうかはよくわからないが、そんな彼女に惹かれて彼女について回っていたのだろう。もちろん、まさかドワーフに殺されかける羽目になるとは流石に思っていなかっただろうが。それに、彼らにはもうひとり強い味方が居る。不思議な青年、神童秀正。私が夫妻と再開できたのも彼のおかげだし、彼はいろいろなことを見通しているようだから、あのハーフリングのような青年もきっと無事だろう。
ただ、あの青年以上に私の悩みのタネとなっていることがある。エルフの娘アリアのことだ。あの一件が原因でエルフ特有の力を失ったアリアはすっかり落ち込んでしまっている。友人夫妻の愛する子供だから、私も精一杯慰めてやりたいと思ったのだが、あまりに心の傷が深すぎて、まだ完全には立ち直れないでいる。随分と私に懐いてくれているのは確かなのだが。ただ、彼女がいかに力を失っていようと、夫妻にとって大事なことは、愛する娘が五体満足で生きて帰ってきてくれたのだから肩身の狭い思いをする必要など、ないはずなのだが。
そういえば、アリアの母オザキヨあの儀式のときに使ったあの祭祀用の盾は一体どこで手に入れたのだろうか。あまりに都合が良すぎるのではないか。まぁ、隠していたわけではないと思うので、せっかくだからこの機会に聞いてみようか。
「ちょっと気になっていたんだけど、あの美徳の盾はどうしてあんなに都合よくあの家から出てきたんだ？」
「あぁ、あれはね…… ……と、いうわけなのよ！」
相変わらずこのエルフの説明はなんの装飾もない。まるで子供の日記のようだ。私がもうちょっと具体的に聞き取って、まともな冒険譚にしてみよう。