本作は単純にGC版をHD化しただけではない。恐らく多くの人がすぐに影がデプスシャドウ式のセルフシャドウを用いて生成されていることに気づくだろう。さらにHDグラフィックとしてはすっかり定番となったHDRレンダリングも実装されている。壁際や草をよく見ると気づくかもしれないが、非常に基礎的なSSAOも適用されている。これは光陰表現としては正確性に欠け、現行のUnrealEngineやCryEngineが実用化しているものに比べると1,2世代古いものになるが、ないよりは説得力を増す映像を実現できている。レンダリング解像度が1080pだが、ジオメトリ自体はGC時代と大差なく、フレームレートが30fps、場合によってはもっと落ちているように感じるので、リメイク版としてはもう少し努力して欲しかった気がする。

オリジナルであるGC版の頃から風のタクトのBGMは評価が高かったが、これを完全に引継いでいる。大海原のメロディが秀逸なのは言うまでもなく、各地のBGMはそれぞれの島の雰囲気を的確に表している。SEも、グラフィック同様リアル路線でなくアニメ路線で造られており、絵とマッチしている。また、オリジナル版でもそうであったが、SEの音階はBGMに合わせて適切に変化するという拘りようである。

GamePadを操作用サブディスプレイ付きのコントローラとしたことで、武器や道具の使用、切替、マップ確認がずいぶんと楽になった。Proコントローラを使用するよりもGamePadの方がプレイしやすいと感じた。UI以外の面に目をやるとオリジナル版で煩わしかったタライとホース集めは大幅に簡略化されたことも評価したい。それ以外の面では基本的にGC版を踏襲している。

本編のシナリオ自体は20時間もあればクリアできるかなといった程度の長さ。攻略効率がオリジナル版よりも改善したので、ボリュームとしては減った気すらするが、その実やっていることは同じなのでシステムが秀逸になったということか。本来オリジナル版で追加されるはずだったダンジョンはリメイク版の今作でも追加されていないのが残念。それらのお蔵入りダンジョンはゼルダの伝説の他のシリーズに回されたということだが、オリジナル版以降の3Dゼルダはトワイライトプリンセスかスカイウォードソードなので、どちらかのダンジョンが本来風のタクトに存在するべきダンジョンだったのかもしれない。

基本的にリメイク版なのでシナリオに変化はなく、リプレイ組としては驚きはない。コキリ族やゾーラ族の変貌は、正直納得出来ないレベルなので、もうちょっとどうにかならなかったのかなと感じてしまった。